第18章 〜少年は現状に不満を抱く〜
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昼ご飯時のピークを過ぎたポアロに、一時的に客がいない休憩の様な時間ができた。一人でシフトに入っていた安室は、思わずホッと息を吐いたものだ。彼は今のうちにと食器洗いや家具の整理、椅子や机の整頓を始め、最後に出入り口の辺りの掃除を済ませた。そして今度こそやる事が無くなり、キッチン内で少し何をするか黙考していた時だ。チリリンッとなったドアベルと共に、先日顔を合わせたばかりの麻衣と見覚えのある純白の男が入店してきた
「よっ!俺みたいのが突然来て驚いたか?!」
何故か入店して早々に、彼は安室に気さくな態度を見せた。純白の男・五条国永は入った時は麻衣の背後に立っており、ひょっこりはんの様に出てくる仕草で「ばぁ!」と悪戯好きな笑顔を見せる。儚げな雰囲気が台無しだ。加えて彼も付喪神の一柱で真名は別にあるのだ。安室は今度こそ演技ではなく、愛する日本の歴史が生んだ宝と、出会わせてくれた麻衣に笑顔で対応する
「あははっ!貴方を始め、麻衣さんの身近な方達には、色々と驚かされっぱなしですよ。と言っても、何がとは言えませんがね…。いらっしゃいませ麻衣さん、鶴丸国永様もようこそ」
「先日ぶりです安室さん」
「おいおい、俺達はそこまで偉い神格持ちじゃないぞ?もっと気軽にしてくれてかまわん」
一応畏った口調と態度を取る安室に、まるで見守る様な眼差しで穏やかな笑みを浮かべる麻衣。しかし、鶴丸の方は自分を知って貰えて嬉しがる反面、何処かむず痒そうに照れて頭を掻いていた。如何やら発言通り、あまり恭しい対応を取られる事に慣れていないらしい。
「そ、そうなんですか…。それでは、程々に崇めさせて頂きます」
「さては君、かなりの頑固者だな?!そんでもって、日本大好き人間だろう?!だがまぁ、しかし他の連中達にも同じで構わんぜ?お嬢が協力し合うと決めた相手だからな」
「それに彼らは人と共にあった存在。その本質は妖よりも神様に近いですが、その時代の人間の営みを身近に感じる道具寄りでもあります」
「道具寄り?それは付喪神特有の感情ですか?」
安室が協力者達の話を聞き、首を傾げて問うと鶴丸が頷いて返した
「ああ!俺達は大事に扱われたから今がある。要は人間が大好きなのさ、お嬢に危険がないなら俺達も相手に普通に接する」