第17章 〜手を取り合う架け橋〜
「はい。私の隣に控える一期もその一振りです。彼は実際の銘を『一期一振』と言い、かの天下人・豊臣秀吉の元に在った云われた刀でした」
そんな彼の様な存在を、我々は『刀剣男士』と呼んでいます。そう告げた麻衣に、降谷と風見は同時に「待ってくれ」と訴えた。ギブアップだ。あまりに突飛すぎる話の数々で、先に見せられた刀剣が顕現させる過程の時から混乱していた。静かに黙っている黒田も同様である。それに麻衣は「分かりました」と頷き、説明を止めて彼らが脳内で話を整理する時間を設けた
自身も一呼吸入れる為、眼前に置かれた湯飲みを口にする。お茶の渋い味が口内に広がり、その余韻に静かに浸ること五分弱。漸く三人の中で話が呑み込め、この中で一番麻衣に関わりが深い降谷が何処か気まずそうな顔で尋ねる
「……説明の途中で中断させてすみませんでした。あの、一応質問させて頂いても?」
「構いません」
「もしや、今まで貴女と会う度に入れ替わりで護衛を務めた方達も、その、刀剣男士と呼ばれる神様なんですか?そして名乗ったものも偽名で、刀剣としての名前があるんでしょうか?」
その質問に対する麻衣の答えは、彼らも何処かで予想しきっていた通りの肯定である。しかも刀数が三桁に届くというので、全振りを教えてもらう事は出来なかったが。会った事のあるメンバーを含め、全ての偽名は彼らの逸話や刀匠、持ち主の名前に由来していると言う。だから降谷は以前ポアロに訪れてきた不思議な男を思い浮かべた
「(……たしか、あの男性は三条宗近という偽名を残していたな。あの名前は平安時代で名高い刀匠のものだった。そして自身を一等美しいと定めるあの在り方と、実際に神秘的な美を感じるあの容姿。多分、天下五剣の一振り『三日月宗近』だ)」
それは予測というより、確信に近い推理だった。確かに最初は疑わしいほど飛躍し過ぎた話だと思ったが、そもこの会議は血判書まで出した最重要機密を互いに提供する場である。そして実際目にしてしまった一期が刀に戻る姿と再顕現、思い返せば寧ろ納得がいってしまう様な刀剣男士達の人智を超えた美貌。何より降谷達に語り聞かせる麻衣が、疑う余地もないほど強い正義感で訴えるのだ
彼らはそんな麻衣の話をきちんと信じ、意を決した黒田がいよいよ踏み込んだ問いを投げた