第16章 〜山姥伝説 後編〜
確かに自分達が知らない過去を、否定も肯定もしようがないのだ。出来る事は文献を調べ、数多の説の中から最適解を導き出す事だけで。事実は時代とともに霧の中に埋れ、当人達のみが知る様になる。けれど逸話に基づき進んだ事件は、現状と比較させて過去を紐解く事で解決できた。そして山姥が生贄側であろうと、他の村人達であろうと、『最終的な結論と要因は変わらない』
ずっと言葉を失っていた風見だったが、その答えに辿り着いた途端顔を真っ青にさせる
「……ですが、それじゃあ、この一連の事件の犯人達はっ!」
「はい。───この村に巣食っていた山姥の正体、それは他ならぬ村人達です」
*
麻衣が犯人達を解き明かした後、すぐさま彼らは資料室を飛び出し外へと駆け抜ける。そして黒田は管理官の権限のもと警察本部へ先の連絡を入れて、風見が麻衣達と共に手分けで村を見回った。彼らが全ての家でインターホンを鳴らすも、誰かが応答する事もなく、家内に人の気配自体が無かった。つまり事件を見抜いた事はいいが、いつの間にか村人達全員が行方を晦ませている。一刻を争う事態となった。何処に消えたのかさえ分からない
「くそっ!!こんな田舎じゃ防犯カメラも無いのに…っ!」
思わず悪態をついた風見。後一歩という状況で逃走されてしまったのは油断と思い込みだ。村人達があまりに堂々としていたので、こうなる事態を想定できていなかった。これにはさすがの麻衣達も、不覚であったと眉間のシワが多くなる。一体どうすればいいのか。再び彼らは全員が合流し、策を講じようと黙考している時だった
「あ……!今さっき、虎くんの声が聞こえました!」
「「!!」」
「本当ですか謙信?!」
「は、はい!村人達が集合して怪しい儀式をしているって!」
ハッと何かに気づいた五虎退が、声が聞こえると言って麻衣や護衛の仲間達に報告する。それで本当なのかと驚く彼の仲間達だが、『虎くん』という者の声を五虎退以外聞いていない。しかも黒田や風見としては『虎くん』自体を知らないのだが、何か手がかりがあるのならば縋らないわけにはいかない。よって、彼らは五虎退を先頭にして、意思を確認するまでもなく駆け出したのだった───