第16章 〜山姥伝説 後編〜
「は、はい!」
「「分かってるよ」」
「了解した」
麻衣が提案した内容に五虎退、髭切、青江、膝丸がそれぞれ快い了承を返した。次いで一瞬の間を置いた後、不意に五虎退の「あっ!」という何らかに気づいた声が上がった
「あの、あるじ様。虎くんが夜のパトロールから帰ってきました」
「ならば、彼を入れてあげましょう。人目につくのは遠慮したいですし…。髭切が助手席に移って、あの子を二列目に入れてあげてください」
眷属の気配を悟った五虎退の報告を聞き、麻衣が指示を出すと間延びした「はーい」という髭切の返事が返ってくる。すると彼はすぐに二列目の席を降り、替わりに体躯が大きな成獣の虎を車内に入れ終えると、自分もさっと助手席に乗り込んだ。そして五虎退の虎は、座席を踏み台にする前屈みの姿勢で三列目の中央に座る麻衣へ甘える様に顔を寄せた
「グルルルッ…」
「……はい。お疲れ様でしたね、ありがとうございますウエスギ。それでどうでしたか?夜の村に変な事はなかったですか?」
「がぅっ!グルルッ、がうがうっ!」
まるで言葉が通じているかのように、麻衣とウエスギなる大虎が言葉と鳴き声を交わす。まるでウエスギの言っている事を理解している風に、麻衣が何度も相槌を打っていた。そして一人納得しきった顔で、ウエスギに「お疲れ様」と労うと麻衣はポツリと呟いた
「……山姥の住まう穢れきった村、か」
*
その後、よく晴れ渡った翌日のこと。彼らは宣言どおりに山姥伝説を調べる事を提案し、集落の端に建つ公民館の資料室へとやってきた。黒田も風見も聴取で出てくる山姥の逸話に重要性を感じたらしい。自治会長の案内のもと全員で訪れ、六畳ほどある本棚ばかりの空間内で仕事を開始した。一応資料室はこの村の歴史や、山姥伝説に関する書物が多数納められているらしい。今回彼らはその内容を理解するのに何冊か読み込みたいのだ
そうして資料室に閉じ籠って二時間。本の頁をめくる音が目立つ静かな空間に、ふと麻衣の「……おかしいですね」という訝しんだ声が上がる。それを聞いて全員が顔を上げた
「可笑しい、ですか?何か事件に関するヒントでも?」
「恐らく。この村の逸話を読んだみて、普通の逸話にはない違和感を感じました」
「違和感?」