第15章 〜山姥伝説 前編〜
「見させて頂いても?」そう問う麻衣に警察二人が頷いて返した。そして彼女がファイルを受け取るとすぐに護衛達も近づき、全員で文書を黙読し始める。因みに小柄な五虎退は髭切に抱えられており、すみませんと言っては気弱で申し訳な様子を見せていた
さて、ここからファイルの中身にどんな情報が詰まっていたのか、事前に把握している事を踏まえた整理が始まる。まず最初のページに載るのは、最新とされる今回の事件の三人目の被害者のものだ。麻衣達はこれ以上資料に未知の情報が無いか、既知のものから遡る形で読み進めていく
最後の被害者の名前は須藤幸恵、65歳で一人目の被害者である須藤透の妻だ。現場は同じ山の中で離れた場所にあり、同じく遺体の様子も心臓を一突きされたものか出血多量が原因なのかは不明なまま。そしてダイイングメッセージや、犯人に繋がりそうな証拠もなさそうで。一応犯人のものらしき足跡があったのだが、その上からや周囲に野生動物達の痕跡が多いあまり真面な捜査が出来なかった
続いて二件目、名前は山内浩二で35歳の独身。現場も遺体の様子も前述されたものと同じ状態だ。犯人を特定できるものが無く、死亡推定時刻が昼間なので関係者全員にアリバイがあった。これも一件目と三件目、さらに資料によれば、ちょうど十年前に起きた四件の事件と共通している部分である。と言うより、最早全てが出来すぎている犯行だった
被害者は全員田舎の集落在住であり、死亡時刻が昼間で犯行不可能と判断せざるを得ないのだ。加えて全員仕事が農家で出荷相手も同じ、若い世代が少ないのもあり買い出しは、山の向こうから大きなトラックが来て販売してもらってるらしい。村自体が小さいのだが住人は年寄り世代を中心に多く住う土地なのだ。この集落は閉鎖的で怪しい点が多かった。何か途轍もない秘密が隠されているのではないか、と
なのでファイルを見終わった麻衣は、黒田と風間を見据え次に行きたい場所としたい捜査を口にした
「……一応他の二件の現場も確認したいと思います。その後、集落へ降りて実際の証言を聞いてみたいです。何か見落としがあるかもしれませんからね。それで大丈夫でしょうか?」
「え、ええ…。我々は構いませんが、本当に大した話は聞けませんよ。彼らはアリバイが成立してますし、地元の山姥伝説を凄く信じているようなので」
