第15章 〜山姥伝説 前編〜
「……そうですか。今ので『表向き』の事情は察しました。いくつか質問してもいいでしょうか?」
「ええ、まだまだ不明な点は多いですが。こちらが把握している範囲で答えましょう」
『表向き』という言葉で、一瞬にして空気が張り詰めた。順に黒田と風見が大まかな話を聞かせた後、ここからが本番とまでに麻衣が律儀に質問を要求する。彼女は顎に手を当てながら、考える仕草自身が感じる疑問をぶつけていく。その間、やはり彼女の刀剣達は何も喋らず、周囲を見回しながら会話に耳を傾ける
「さきほど貴方方は、遺体に喰いちぎられた跡があると仰った。そしてそれが近隣の森に住む動物の仕業じゃないかと推測していると…。ならばこういった場合、一般的な部署が一先ず殺人事件として捜査を展開していくはずです。我々政府も公安警察の人も表立って動きません。被害を加えた動物達の処遇を決める必要もあります。いくら捜査が難航しても、担当部署が変わる事は早々ない……どうでしょう?」
「……ふむ、然りですな」
「となると、公安警察が動かざるをえない相応の理由がありますね。何でも、この村には『山姥伝説』というのが存在する…。今回の一連の事件はその伝承に僅かに似通う部分があります。だから恐らく、貴方方もこの事件に普通ではない可能性と異常な部分を見出した。……私はその様に考えているのですが、どうでしょう?」
「……貴女の仰る通りだ。確かに我々の部署は、被害者全てが野生動物達に現場を荒らされているなどとは思っていません。無論、現場は森の中ですから、動物達が荒らした部分もあるでしょうが、ね」
これでは質問というより、半ば確信している事を確認し合う高度なやり取りだ。そして物騒な考えばかりを共有させ続けている麻衣と黒田だったが、更に黒田の口から最悪のケースが告げられる事になる。「あれを」黒田が風見に短くそんな指示を出すと、風見がずっと持ち歩いていた厚さが薄い黒ファイルを開いた
「これは?」
「過去にこの村で起きた事件を発生順に並べたものです。ほぼ一定の間隔において、何度もこの村には似た事件が多発している」
「「!!」」
思わず麻衣達政府側が愕然となる中、誰かがハッと息を呑んだ。いくらか遅く事件に関わる事になった彼女達は、ファイルと共に出された過去の事件履歴は初見だった。
