第15章 〜山姥伝説 前編〜
一人は黒縁眼鏡をかけて目つきが鋭く、緑茶色のスーツを着こなす若者。そしてもう一人は背丈が大柄で白髪の隻眼、右目の方だけ火傷を負って右側が黒い眼鏡をかける顎髭を生やした茶色いスーツの人。彼らは降谷の部下でもある警視庁公安部の人間と、以前彼女が警視庁で見かけた警視庁刑事部捜査一課管理官であった。そして麻衣達は全員黒いスーツで統一され、互いに唯ならぬ空気を醸し出していた
「お初にお目にかかる」
管理官が麻衣の前まで来ると、まずは事務的な挨拶を口にした。彼は草書体で「九十九神社」と書かれた白い御守りを掲げ、それを見た麻衣も同じ物を自身の懐から取り出した。これが互いを関係者だと知れる目印だ。これを確認すると、刑事側の二人が強張っていた顔を一層引き締め、麻衣達に敬礼をとった
「私は警視庁刑事部捜査一課管理官の黒田兵衛です。今回、事件の責任者を任されました」
「私は警視庁公安部に属する風見裕也と言います」
「はい、黒田管理官と風見刑事ですね。私は宮内庁特殊事案対策課所属の榊麻衣と申します」
「えっと、同じく部下の粟田謙信です…」
「同じく長船長義。それから右に堀川切国、青江笑(あおえしょう)、源薄縁(みなもとはくえん)、最後に源頼友だよ。よろしく頼む」
黒田と風見が所属と名前を名乗った後、麻衣に続いて五虎退、長義、国広、青江、源氏兄弟の順で名を挙げて行く。すると五虎退を見た風見が目を見開いて愕然となった
「なっ…!宮内庁はこんな幼い子供にも仕事をさせるのか?!」
「はい。ですが採用される基準は当然大人以上に厳しいですし、本人の意思と覚悟がないと入らせません。たしかに謙信は幼い見た目で気弱い部分もありますが、いざとなれば凶悪犯を軽く圧倒できる実力を秘めています」
「「?!!」」
咄嗟にそんな馬鹿な、と思いかけた風見。しかし宮内庁の秘密組織に勤めるならば、子供も大人も只者じゃないのは明白だった。ニコリともせず淡々と告げる麻衣に、風見がハッと息を呑んだ。そして五虎退も含めた男達の、全く隙がない雰囲気に内心ゾクリと震え上がる。隣の黒田も僅かに強張っている顔で何とか平静を保ったまま、駐車場の奥の規制線が張られた獣道を手で示した
「部下が大変失礼しましたな。まずは現場へ案内しよう」