第15章 〜山姥伝説 前編〜
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さて。ここで一つ昔話を聞かせよう
なぁに、何処にでもよくある馴染みが深い伝説だ
一般的にそれに出てくるモノは『山姥』などと呼ばれているが、地方によってその名称と在り方が多少異なっている
これは、そんな山姥に纏わる血濡られたとある村の話だ───
昔、まだこの日本が泰平の世を統べるべく、数多の武将達によって覇権を争っていた戦国時代
相次ぐ戦争によって疲弊しきった貧しい小国、治安が整っていない農村が次々と現れた
国全体が貧富の差に喘いで一揆を起こす者が出現する
そして最も身分が低い百姓達の間で、大飢饉に陥いる事態が起きたのだ
正しく未曾有の危機
民はみな身体が痩せこけており、二足で立ち上がれない
まるで譫言の様に食物を求める呻きを上げ、何十何万の蛆虫達に集られながら地面に伏せる
衣服も泥で汚れで穴が空いていた。まともに見ると吐き気を催す様な惨状だった
罪なき百姓達は毎日どんどん死んでいく
弱った老人達が栄養失調と病に倒れて
赤子も母がもたない故に授乳される事がなく、数ヶ月と経たぬ間に母子とも餓死していくのが常だったそうだ
……何処の村も大きな打撃を受けていた。しかし、この物語の舞台である農村だけは極めて酷い有様だったらしい
一体何故だと思う?
それはこの大飢饉を乗り越えるべく、村人達が元来祀ってきた山神様に対し、祈りと贄を捧げる儀式を行なった事が始まりだ
無論、生贄となった村人達は不幸な最期を遂げる事になる
彼らは村人全員よって、生贄の儀式が行われた次の日の早朝、山の中で全身を食い荒らされた死骸となって現れた
ところが最初に儀式を行なって以降、なぜか次々村人達が同様の遺体となってで発見される様になったのだ
すると近くの村の人間達は『彼らの祀っていた山神は存在しない、その正体は山姥だった』と言い出す
更に、毎回あまりの惨殺死体で見つかるため、現場の山を挟んだ隣の村が『山姥集落』とまで貶すようになった
ところが何とも皮肉な話をすると、そこが飢饉を完全に脱したのは周囲の村より何ヶ月も前
そして飢饉に比例する様に惨殺事件は数が減少したらしいが、この集落を訪れたとある巫女が言うに、「生き残った者は僅か四人の男女だけ」だったそうだ
それ以降、この集落には一風変わった山姥伝説が出来、今も語り継がれているーー
