第14章 〜探しモノ〜
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その一方で麻衣達が住む本丸内では、刀剣達が廊下を駆け回ったり大声で誰かを呼び回って全体的に騒がしかった。庭にも大太刀全振りに加えて太刀・打刀が数振りおり、所々至る場所で「どこに行った、徘徊じじい!!」と苦労が垣間見える怒声が響き渡る。麻衣は自身の離れ屋敷の縁側に座ってその騒音をBGMに初期刀・加州清光と二人で中庭の景観を眺めている
「別に彼は顕現したてなわけでも、練度が低いわけでもないのですがね…。一応普段は惚けてるようでも、千年以上の月日を生きたあの刀剣は、老獪でいて恐ろしいほど力強く別格に美しい。誰をも翻弄できる強かな御刀様なのは承知の上、些か心配しすぎなのでは?」
「だから逆に心配してるんだって!絶対アイツ、俺達が探し回っているのを知って満喫するまで帰ってこないんだから!」
何度もあったらしい出来事を思い出してか、「主はアイツを美化しすぎ!」と清光は不満顔で愚痴を零すがどこか諦め半分で怒っていた。それを聞いて麻衣が苦笑いで「すみません」と謝ってみるが、あまり反省していなのが分かると彼が余計に肩を落とす
さして、この話題となっている刃(人)物の名は三日月宗近。彼はかの平安時代の刀工・三条宗近の手によって作成された、天下五剣で最も美しいとされる平安太刀の一振りである。常は自身を『じじい』と称し、それに相応しい様な言動で振る舞っているが、その内面は誰も図る事ができない。しかし主命はきちんと果たすので、意味深な行動や自由すぎる部分が目立つだけだった。まさに妖艶に尽きる雰囲気を持ち、信頼できるが味方も扱いに困る刀剣男士なのだ
「はぁぁあ…。見事に携帯も置いて出てくれちゃって、迎えにいこうにも場所が分からないんじゃ本人帰ってくるまで見つかんないだろうね」
げっそりとした表情になって、長く深いため息を吐く清光がそう言った。彼は床に手をついて上体を反らすと、何処か遠い目をして晴れ渡った朝の青空を仰いだ。そしてポツリと一言、ドスの効いた声が麻衣へと届く
「……ったく、帰ってきたら速攻道場に連れて行って手合わせで扱いてやんよ」
取り敢えず、それを聞いた麻衣は「程々にお願いしますね」と三日月の為に念を押しておく。この本丸の刀剣達は全員練度が上限なのだが、やはり初期刀の彼には敵わぬ部分もあるのである