第14章 〜探しモノ〜
まるで一種の毒素の様なかんじだ。今まで当然だった日々に飛び込んできた特異点。その純粋すぎる価値観によって、じんわり己の持つ常識が塗り替えられる感覚がした。それほどまでの影響力があった。そして麻衣の志の強さに羨望している反面、コナンは変化していく日々に確かな恐怖心をもっていた
「……ホントにそれだけなの?」
「……」
けれどコナンの勘が告げる。安室がもっと深い部分を懸念している事、麻衣に分厚い壁で覆った儚い脆さがある事を。安室は答えなかった。彼は以前キッドの事件で絡んだ際、彼女が勘だと言った才に違和感を覚えていた。それを思い出したのだ。何故かよく分からないまま安室が不安になる。そして感覚的に数秒間、現実的には刹那の沈黙が流れるなか。不意にポアロの出入り口が開き、来客を知らせるドアベルが音を立てた。すぐに我に返った安室が、ドアの方を振り向きざまに愛想よく来店の挨拶をした
「あっ…!いらっしゃいま、」
最後の『せ』の音が聞こえなかった。何故か安室が突如、両目を見開いたまま息を呑んで固まったのだ。一体何を見てしまったのか。コナンは不思議そうに首を傾げながら入り口を見、そこに眩く輝くモノを見つけ目が潰れそうな感覚になった。因みに挙げた声は間抜けな事にも「ひょえっ…」である。安易に見てしまった事を瞬時に後悔した。そして二人で仲良く目を剥き続けていると、ゆったりとした声がかかる
「……うん?二人で固まっておるが、如何かしたのか?」
「「……っ?!」」
聞こえたのは妙に落ち着く男の声だった。口調が何処か古めかしいが、それも気にならないほど女性に見紛うくらい綺麗な男が立っていた。まるでこの世の者じゃない、恐ろしいまでの美しさ。群青色の髪と穏やかな同色の目、瞳は幻想的に宿る三日月(打ちのけ)がある。服は割とシンプルでデニムのジーンズ、ロゴ入りの白Tシャツと黒いジャケットを着ていた。そんな美形すぎる男に声をかけられ、安室は大いに慌てながら緊張する
「いえいえ、何でもありません!お、お一人でしょうか?」
「うむ。好きな席で良いのだろうか?」
「は、はい」
「ならば…そこな童よ、隣を使っていいか?」
仄かにマイペースさを感じさせる、ほけほけとした話し方。若い青年なのに老人の様なのんびりさを持って、惚ける二人に首を傾げたのだった