第13章 〜持てるものこそ与えなくては 後編〜
「公衆トイレの近くにあった木の枝、何か打ち付けられた跡があったよ!」
「それに細いワイヤーを切った時の小さなゴミもありましたね。途中で長義さんに止められてしまい、後は何も発見できませんでしたが…」
「なっ…本当かね?!」
ワイヤーの話を挙げた沖矢は、後半の台詞で長義に対する不満と恨みを滲ませた。だが、二人の証言を聞いて驚いただけの目暮達は、すぐに鑑識係に頼んでワイヤーの欠片とその付近の捜索を開始。肝心の長義も何か言うでもなくて、半ば無視された形になった沖矢は貼り付けた笑みを引きつらせた
彼は除け者扱いに怒りもあるが、何より挑発しても相手にされない様が自分が幼稚に見えて悔しく思えていた。しかしこれ以上荒れてはみっともないと思われかねず、ギリッと血が出るくらい強く拳を握りしめて感情を抑えた。目に見えてホッと胸を撫で下ろすコナンだったが、ふと何気なく沈黙している麻衣を不思議に感じて見てみた
すると彼女は事件が苦手で顔色が悪い状態なのに、現場の方を無表情でジッと見続けていた。まるで近場に『何か』が在る様な眼差しで。しかしコナンが見ても、入り口が真逆で見えない公衆トイレの外壁以外は何も無い。そう、彼女はコナンが見えない何かを、ずっと瞳に捉えていた
「……ねぇ、麻衣さんは一体何が視えてるの?どんなものが在るの?」
「……そうですね、あまり子供が知って良いようなモノで無いのは確かです」
「だったら、麻衣さんだって見ない方が良いと思う。気分が悪いんでしょ、顔色すっごく酷いよ?」
当然の如く訝しんで直球に尋ねたコナン。しかし麻衣の返事というのが、要領を得ない曖昧な言葉だけ。加えて説明に困った顔で言うものだから、だったらどうして見続けるのか疑問が絶えない。そこまでして見ようとするのも気になる。ともかく見るなと注意してやれば、麻衣は更に困った様子でコナンに言うのだ
「ええ、心配してくれてありがとうございます。ですがたとえ見えないフリをしたとて、一度視界に映ってしまえばそれを完全に意識しないなんて不可能でしょう?幸い形を失くして彷徨っているだけで危険はありません。だから君は知らないままでいなさい」
「……っ」
そんなオカルト地味た言葉だったが、コナンは不思議と胡散臭いと吐き捨てる事が出来なかった