第12章 〜持てるものこそ与えなくては 前編〜
だからもしも知られれば最後、その人物も自分達と同じく危ない状況に巻き込まれるわけで。灰原はそれを危惧した振る舞いをずっと心がけていた。いつもは軽率すぎるコナンを灰原が嗜めてきたのだ。麻衣が友人であるなら、灰原は何としてでも巻き込んではならないと考える筈なのに
「そんな事は百も承知よ。別にバレてもいいだなんて思ったことないわ。むしろ麻衣を危険に晒したくない…。だから今まで彼女に組織の話を漏らした事はないし、私もお姉ちゃんもここ三年は音信不通でまともに会ったのは久しぶりよ」
「……!!」
「まったく、全然変わってなくて嬉しいのやら心配になるわって複雑なかんじね…。麻衣はすごく穏やかで派手好きじゃない子だけど、周囲は浮世離れたその雰囲気に魅了されて惹きつけられていたわ。彼女のそばには常に過保護な護衛が数人いたけど、これまた美形揃いだから目立つのなんの。ホント昔のままね…」
灰原の過酷すぎる事情と友人を想う覚悟を聞いて、コナンがハッと息を呑むと気まずそうに視線を逸らした。彼女が件の組織に入りたくて、入ったわけでないのを知っているからだ。本当の姿で会いたいけれど、本当の事を言いたいけれど、そう出来ない苦しさをコナンも抱いている。そして昔を懐かしんでいる彼女は、哀愁漂う寂しげな声音と表情をして過去に思いを馳せた
「(……昔からそう。あの子の周りはいつも綺麗に眩しく輝いていた。時に悪人でさえも、狂おしいほど懺悔を求めて焦がれるくらい)」
*
子供達と沖矢と阿笠と別れ、コナンと灰原が二人で只事ではない話をしている一方。麻衣達も政府から来た山姥切長義と呼ばれる刀剣男士、本歌(もとうた)長義と四人で仕事の話に入った。南海が風呂敷の結び目を解くと、長方形の木箱が姿を出して麻衣が上蓋をそっと開く。中には最近の代物なのかこ綺麗な壺が収まっている
「───以上が今回預かった呪具の処置報告です。近年呪術による被害は増していますし、政府での監視・罰則の強化を図るべきかと」
「ああ、そうだね。すぐに上層部の人間達へ話を通しておこう」
ひとまず一通りの報告と壺を渡し終えて、難しい顔の長義に意見を告げる麻衣。実に淡々とした口調だったが、彼女の顔は増える呪具での案件に憂いて暗くなっていた