第12章 〜持てるものこそ与えなくては 前編〜
「ねぇ麻衣さん!!今さっき言った志保さんって名前───」
「残念だけど、私は貴女が言ってる志保さんって人じゃないわ」
質問責めにしようとしているコナンを遮り、灰原が自ら進み出てきた。普段なら何かで怯えると隠れている彼女が、まるで大丈夫だと確信を持っているかのうように行動している。その光景にコナン達が言葉を無くすほど驚くなか、麻衣は違う人物だと否定した少女をジッと見つめる。そして仕方ないなと言わんばかりに、寂しげな笑みを浮かべた
「……そうですよね。貴女があまりに彼女とそっくりなので、間違えて呼んでしまいました。ごめんなさいね」
「いいえ、別に気にしてないから大丈夫よ。それより大勢でお邪魔しちゃってすいません、私達これで行きますので…」
「「え〜!!」」
二、三言の会話で別れを告げる灰原だったが、子供達から不満そうな声が上がった。それに「放浪者二人はもう捕まえたでしょ?」とコナン達への嫌味も込めて彼女が言い聞かせるも、子供達もなかなか引いてくれない
「だけど、歩美たちもお姉さんと仲良くなりたい!」
「そうだぞ!俺達もその姉ちゃんと話してぇよ!」
「もう、そんな我儘ばかり言わないの!迷惑かけちゃ相手も困るじゃない!」
歩美という名の少女と少し小太りした少年の言葉に、灰原が語気を強めて叱りつけた。するとまだ諦めきれない彼らは酷く残念がってしまうが、様子を見ていた麻衣も言葉を選びながら口を開く
「……仲良くしたいと言ってくれるのは嬉しいんですが、私達は大事な用があって人と待ち合わせ中なんです。時間もそろそろ迫ってますし、お話するのは難しいかと」
「うぅ〜…それじゃあ仕方ないです…」
「おや?噂をすれば……」
麻衣が優しい声音でやんわり諭すと、諦めたのかそばかすの少年が落ち込むのを皮切りに二人の子供達も同時に肩を落とした。するとコナン達が来てからずっと黙って見ていた南海が、入り口付近に黒いスーツの男を認めて呟いた
全員の視線が南海の見つめる先を追うと、そこには陽光で美しく輝く銀色の髪を持った凛々しい端正な顔立ちの男の姿があった。青年はまるで異国の王子の風格もあって爽やかな印象が強い。彼は麻衣達のそばに子供達と大人二人が群がっているのを見て驚いたが、途端に面白がった笑みを浮かべる
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