第1章 思い出
二階の階段を上がり、四部屋続きの廊下に案内されると、その突き当たりにある奥の部屋からあの少女が先程より少し小綺麗になった格好で出てきて、一行の横を通っていく。
改めて見るその姿は、やはりあの少女に似ている顔立ち。しかし記憶にある少女は銀髪だ。
師の名前、
似た顔、
違う髪色。
(気のせいか)
似ている奴ならきっと幾人もいるだろう。
けれども、あの名はひっかかる。
『江流いえ玄奘三蔵、 と仲良く』
三蔵を受け継いだ晩そう言われ、その子と二人で下山した。
『江流が三蔵?』
『そうだよ、もう江流じゃないんだ』
まだまだ不安定な造りの幼手をとり守りながら、ある時、何処かで
『また会える日があったら、その名で分かるから』
と、とある夫婦の所に置いてきたのだ。
そうやって走馬灯の様に記憶が蘇る。
妹と言うには程遠く、縁も繋もないが師匠に育てられたという点は同じで
「つい気になってしまいまして」
といつものニコニコ顔で犬でも拾ってくるかの様に連れてきた小さな命は師匠の腕の中で血みどろで、
「あなたの様に流されてきたんですよ」
と愛しそうに言っていた。
『拾い運が良いんです』
と嬉しそうにするのを見ながら、その腕にある小さな命の脆さを目のあたりにして、自分もこんなに脆いものだったのかと思ったものだ。
「この子はーー
コンコン
その子の名がなんと付いたか思い出しそうな時に部屋の戸を叩く音。
返事をすれば
「三蔵?すみません買い出しに行くんですが悟浄が居なくて」
と八戒が顔を出す。
「知らんな」
「で、す、か。なら三蔵」
「行かん」
悟浄の代わりにと言いたげな八戒の言葉を遮り、
「悟空でも連れて行け」
とめんどくさそうに言えば
「悟空ももう出てるようで。はぁ、何か欲しいものは?」
そう聞かれ吸っていた煙草を掲げれば、分かりました。と八戒は部屋を出ていった。
さて、あいつの名はなんだったか・・・。
八戒が階段を降りていくと聞きなれた声に直ぐ様悟浄だと分かる。覗いてみれば先程対応してくれた綾を受付越しに口説いていた。
「悟浄、買い物付き合ってください」
「えー、俺綾ちゃんと話してる最・・・」
パシッと
先程の光明が綾の手を取っていた悟浄の手を振り払う。
「お?」
と威勢の良い光明を面白がる悟浄に
「あ、こらっ」