第3章 確定
「光明様!またその様なものをお持ちになって!」
光明三蔵が説法から帰ってきたその日、寺の中は従者達が少し騒がしくしていた。
「つい気になってしまいまして」
といつものニコニコ顔で腕の中に抱えているものは犬や猫の類いだろうと、帰られた姿を見ていると、ふと目が合い手招かれて近寄る。
「お帰りなさいませ」
「ただいま江流」
「今度は何、を・・・」
と覗き混めば、そこには血みどろの稚児。
「拾い運が良いんです。名前をつけないとですね」
と嬉しそうにする光明三蔵。
そうして、身を清めてみると稚児は女児と分かり
「名」
と名付けられた。
始めは意識を取り戻しても反応がなく、動きはするが徘徊に近いもので従者達は気味悪がっていたが
「名」
と光明三蔵の声にはよく反応して時間をかけて明るさを取り戻し、いつしか江流の事も声をあげて呼べるようになり、
「あなたとは兄妹ですかね」
と光明三蔵に育てられた。
そして、江流が玄奘の名を受け継ぎ、山を降りた時も共にしたが幼い三蔵では両方を守る技量はなく
「今夜はここに泊まると良い」
と山道で行き倒れかけた二人を拾ってくれた宿屋の主人にお願いし、名を置いて行く事にしたのだ。
「もう会えない?」
別れ際そう泣く名に
「その名を目印にまた会いにくる」
今思うと酷い話だ。
名を捨ててまで師匠にも、自分にもすがらせてしまった。
そんな事を思い返していると、食堂の舞台では、わぁぁぁと歓声が聞こえる。
視線を移せば客に愛想と色を振り撒き、接客をしている光明の姿。
そして、席を周り終わりカウンター内に戻ってきたところに
「素敵な歌声ですねコウメイさん」
「いつもその姿でいりゃいいのに」
と八戒と悟浄。
「楽しんでもらえて良かったです」
そう笑顔で返されると
「コウメイ良かったよ」
「また来るよ光明」
と入れ替わり立ち替わりに客が伝えていく。
「人気者ですねぇ」
と八戒達が感心している隣で三蔵が飲んでいたグラスを机におき、
「名だ」
と一言。不思議がる客達。
「三蔵?」
と様子を伺う八戒に、
「誰よその名・・って・・・」
と悟浄が三蔵に聞こうとするその先で目を見開き驚きの表情をしている光明を見て
「マジか」
と悟った。