第2章 旅医者の女
風を受けても目が開けられるよう白い面を被り、巨大化した咲に股がる。
「金鏡はここに残りこの船の守護を頼む。火竜は敵船を殲滅するように。相手は殺戮者。容赦要らぬ。
拙者は母船を狙う。それ以外を狙え。」
二体の式紙の化身はこくりと頷き片膝をついた。
「行け!」
と叫ぶと、火竜はビューンと風を切って一瞬にして船を出た。
「咲!行くよ!」
キィーとけたたましく鳴き声をあげる刹那、もうそこには金鏡と呆気に取られていたクルーだけが残されていた。
「急に何かに隠されたようだが、そこにいるはずだ!!
乗り込んで中の物を奪い取り焼き尽くせ!」
母船に近づくユリにはその声がハッキリと聞こえた。
(させるか!!)
カッと目を見開くと、母船の遥か上空にまで上昇し一気に下降した。
「何か降ってくるぞ!!」
その声を聞いてニヤリと白い歯を覗かせると、スラリと氷傀を取りだし両手で握りしめ船を刺すように構えた。
ギュン!!ドゴォォォォオオン!!
バリバリバリバリ!!
「うわぁぁぁぁああああ!!」
船がユリが氷傀で刺したところから一面、氷で埋め尽くされ更には敵の足にも氷が纏わりついて離さない。
「青雉じゃねぇ!!誰だコイツ!!」
海軍の大将として知られる青雉 クザンはヒエヒエの実の能力者で万物を凍らせる。
確かにこの反応は当然だろう。
だが、相手は殺戮で名高い非道な海賊。
始めから説明する気も、声すら聞かせる気も無い。
「火を纏った化け物が来るぞ!!」
一方、火竜は激しい業火をあげ、船を燃やしながら進む。
「水も何も効かねぇ!どうなってるんだ!」
勢いは止まることを知らず、大量の水さえも高熱で蒸発させ、銃弾も砲弾も核となった式紙に当たらなければ意味をなさない。
その核さえも炎によって守られている。
「ぎゃぁぁぁあああ!!」
断末魔が海に響き渡り、ディルバリーのクルーにも届いた。
船3隻はあっという間に炎に覆われガラガラと崩れる。