第2章 旅医者の女
赤髪海賊団と別れてから数時間が経ち空が真っ赤に染まる頃。
船員と談笑していると何やら気配を感じてすくっと立ち上がる。
「どうした?ユリちゃん?」
表情で悟ったのか緊張感が高まった。
「8時の方角、海賊船4隻!間違いなく、この船狙いよ!」
「4隻?!わ、わかった!親方に伝えてくらぁ!」
ボルさんに報告に走った船員を見送り、敵がくる方の船縁に乗る。
さらに海賊船が近付き、見張り番にもジョリーロジャーがはっきり見えるようになってきた。
「ミックフェルノ海賊団だ!!」
ミックフェルノ海賊団
船長"殺戮狂人"ミックフェルノ
懸賞金4億7000万ベリー
商船、海賊船問わず、また、国も荒らすという残虐非道の海賊。
狙われた標的は跡形もなく消し去るという爆弾マニア。ネコネコの実のサーベルタイガーモデル。
「ほぅ。少しは歯が立つかしら?」
知らせを受けたボルさんがユリの背後に立った。
「いけそうか?ユリ」
緊迫した空気が張り積める。
「勿論よ。 誰に育てられたと思ってるの?」
ニヤリと黒く笑むその顔は、凍りつくほどの冷徹な目で標的を捕らえた。
「敵は4隻。この船を一旦隠す。傭兵も残す。あとは動かないでいて見物していると良いわ。」
「傭兵?!」
クルー全員がその言葉に引っ掛かった。
「透化!」
シュウと音を立てて薄暗い碧の球体に船が覆われた。
「なんだこれは!体が透明に!!」
「見ろ!!この球体の中のものが全部透けて見えるぞ!!」
始めてみるものに驚いて皆が声をあげる。
「できるだけ静かにして。声は隠せないの。直に慣れるわ!」
次に懐から、2枚の人型の紙を取りだし扇状に広げ口許に。
右手で人差し指と中指を立てて息を吹き掛ける。
「式紙七神!ー火竜、金鏡ー」
七神は
月神(ツキガミ)、火竜(ヒリュウ)、水影(スイエイ)、木霊(モクレイ)、金鏡(キンキョウ)、土精(ドセイ)、陽神(ヨウシン)
という神々の化身。
人型の紙は青い炎を纏い、火の粉を吹く竜と金の鏡の盾を持ったガタイの良い男と化した。