第2章 旅医者の女
甲板にユリを残し、今後の話をするためにベンの部屋に足を進ませる。
感の良いおまえなら薄々気付いちゃいるだろうな。
ひょっとしたら、この捻れた思考すらわかっているのかもしれない。
だからこそ、優しいお前は俺の必死の誤魔化しにのってくれているんだろう?
心に引っ掛かっているのは、最初に本気で惚れた女。
未練はもうとっくに消えたと思っていたのに、姐さんに初めてあったときと同じ年頃のユリを見ては、似た点がいくつもありすぎて、重ねて見てしまう。
どっちにしても、姐さんはあいつからは離れない。
無理だとは思っているし、会いにも行かない。
小さい頃から大事に思って可愛がってきたユリ。
そんな大事にしたいやつだからこそ、誰かと重ねたような捻れた心のままで、"自分の女"にするなんてことはしたくなかった。
過去の思いから吹っ切れるまで、もう少し妹のままでいさせてやる。
それからでも遅くないだろう。
その時、もし仮に誰かに思いを寄せようが必ず向かせてやる。
思い返せば、あの時も大概お前自身に惚れてた。
もし、ユリをこの時に無理にでも俺の女にしとけば、
互いそれぞれに、あんな身を引きちぎりそうな苦しい思いはせずに済んだのだろうか?