第1章 幼い士族が抱く使命ー序章ー
使命のためだけでなく、己の幸せも大事にして欲しい。
そなたの幸せこそが親としての本望である。
侍として国を取り戻し、
自身として幸せになってくれ。
そなたの師匠になり父の代わりに育ててくれる男はシルバーズ・レイリーと申す者。
彼に沢山学びなさい。強くしてもらいなさい。
どこにいようが、何をしようが、そなた達を愛している。
達者で暮らせ。
紅條義久、桜 ーー
その部屋に居合わせていた者も含め神妙な面持ちで聞いていた。妹たちは啜り泣き、号泣する男もいた。
この海賊達はこうも暖かいのか....。
父上はおでん様のような破天荒さはなかったものの、自由を愛し、海を愛し、民、家族、自然を大事にしてきた。
身分で人を見ず、人の成りで人を見た父上は
本音を隠さず、回りにいるものを愛で満たし、それに伴い自然と人にも恵まれた。
母にも使用人も我等兄妹もその愛に満たされていた。
今でも最高の父だったと思う。
「お前の父は立派で正直者で愛がある。
おい、義孝、ユリ、雪。
ここに来る間に考えていたことだ。
仲間としての息子はまだ先で良い。
実際に大人になって違う船を選んでも構わねぇ。
この残酷な広い海の中でお前たちを守り、その行く末をレイリーとは違う海の上で見届けたい。
義孝、ユリ、雪
俺の息子、娘になれ。」
見上げた巨体の勇ましい男は、我等兄妹に大きな手を差し出した。
妹も某も、その大きな手に己の小さい手を重ねた。
3人涙が止まらず、横で見ていたマルコは優しい眼差しでこちらを見ていた。
「もう、連れてくるって決まった時から、彼奴等は俺たちの大事な弟と妹だよい。」