第2章 旅医者の女
次の朝、いつも通りに早く目覚めたけど、しらほしはまだ夢の中。
いつもの日課は、彼女が起きてからすることにした。寝具類一式を片付け、着替えを済ませると、手持ち無沙汰だったので、医学書を読み始めた。
朝か夜か全くわからない部屋。そんなところに何年もいたら、地上の人間なら間違いなく体内時計は崩壊だ。
精神的にも体力的にもあんまりよろしくない。
でも、外へ出せば恐怖でしかたないだろう。
シャボンディー諸島で、私が部屋男に入られたときだって、気味が悪いどころでは済まない感覚だった。
恐怖だった。
それが一日中斧が投げられ、逃げられない。
そんな世界がこの扉の向こうにあるとしたら、出たくない気持ちもよく解る。
泣き虫なこの子は斧を見ただけでも恐怖に支配されてしまうかもしれない。
そしたら護衛だけでいいはずもない。
「外に連れ出してあげたいなぁ。」
暫くしてそろそろ朝食の時間。
「しらほし、おはよう。ぐっすり眠れた?」
私の声に反応したしらほしは、目をパチリと開けると、私の姿を確認したのか、パァッと笑顔になり、
「ユリちゃん様!おはようございます!
昨晩はずっと一緒にいてくださったのですね!」
「そうよ。食台借りちゃってそこで寝てたの。何か、久しぶりにこんなにぐっすり眠れたかも。」
「わたくしも、ユリちゃん様がいてくださったから、よく眠れましたし、目覚めもよくて!」
「それは良かったわ!笛吹いてもいいかしら?今日はオトヒメ様のためにも祈りの曲吹かせてね!」
「まぁ!ありがとうございます!」
しらほしと向き合うように、テーブルに座って笛を吹き始めると、しらほしは目を閉じて静かに聞いていた。
そして、笛を吹き終わると、
しらほしはオトヒメ王妃を思い出したのか、
静かに泣いていた。
「この狭くて光も当たらないところで、よく頑張ったね。
泣き虫だけど、あなたは他の誰よりも強くて海より深い心を持っているわ。
私はしらほしを尊敬しているの。
辛い気持ちがあったら、でんでん虫からでも何でも吐き出して。
全部受け止めるから。」