第2章 旅医者の女
難なく対処できたのは良かったが、女の一人部屋。
一番安らげるテリトリーの範囲内での出来事。
この身に起こったことが容赦なくフラッシュバックして全身が凍りつくような恐怖を感じ、その場にヘタリこんだ。
もし、咲がいなかったら、私はどうしてただろうか....。
「咲.....あなたが居てくれて良かった。」
キィキィと鳴いて膝に乗ると、私の顎下に頭をこすりつけてくる。
まるで、無事で居てくれて良かったと言っているようだ。
「ありがとう。咲。」
ホテルの近くにあるバーで、ベンとヨシタカ、他の幹部数人で飲んでいたとき、ふと、部屋に戻れと己の勘が言った。
ふと、ユリのビブルカードを見ると、激しくホテルの方角へ向いている。
あいつが帰ってきてるなら.....
思わずガタっと音を立てて立つと、店内がざわめく。
かまわず、部屋に戻るとだけ伝えて立ち去った。
店を出たあと、ヨシタカも何かを察したのか追いかけてきた。
「アイツの実の兄は俺だぞ。」
「すまん。声かけるべきだったな。何か胸騒ぎがする。急ぐぞ。」
「勿論だ。」
ユリは強い。仕留めることはできるレベルではある。
だが、ホテルの自室まで入ってきていたとしたら心配なのはその時の状況とその後。
風呂だとしたら、気を抜いている状況で気付くだろうか。
自分の寛ぐべきテリトリーの中に男でも押し掛けてきた時、女なら、何もされなかったにしろ、心に傷を負うだろう。
まずい。考えただけでも気が狂いそうだ。
ホテルに戻り部屋への階段を進むと、従業員の男が縄に縛られた状態の男3人を連行しているのとすれ違った。
注意深く引きずられている男を見た。
3人とも気絶しており、衣服は濡れておらず。
氷が突き刺さった状態で出血なし。
間違いない。これは、ユリが仕留めた痕跡だ。
刀を持てたということは風呂の最中じゃなかったと考えていいのか?
「おい。どういう状況だ。307号の女の連れなんだが。」