第2章 旅医者の女
ボンチャリで5分。
ここよと言ってエリさんが止まった。
"船修理・乗り物屋ーゲンゾウー"
店の看板にはそう書いてあった。
エリさんがノックすると、中年の男性が中から出てきた。
名前と風貌からワノ国の出身か血縁かと思った。
「悪いね、ゲンさん。社長は都合悪くて、私が来たよ。」
「あぁ。いい。この娘か。あの鳥を飼うっていうのは。」
チラリと鋭い視線を向けられた。
風貌、雰囲気からして、この人も常人より強いことを悟った。
「君なら、気に入ってもらえるかもしれないな。入りたまえ。」
「はい。失礼いたします。」
薄暗い店内は、ボンチャリと、船、ボートの他に職人と思わせる道具や機械がきちんと整頓されておいてある。
ゲンゾウさんについて行って、店内最奥のケージにたどり着いた。
「急に明かりがつくと驚き暴れる。
訓練すればそれも慣れるだろう。
こいつが例の隼(ハヤブサ)だ。」
ゲージの中に、猛禽類(モウキンルイ)特有の鋭い視線を感じる。敵意というよりは、こちらを注意深く観察しているかのように感じ。
ゆっくりと視線を合わせその目をじっと見た。
目の前の猛禽類に気持ちの波動を合わせ、
ゆっくり目を閉じる。
"咲(サク)"
頭によぎった一つの名。
それは、私が思い付いたというよりは、彼が雄で名を"咲"だと頭の中で一つの会話として伝えられたような感覚だ。
「咲、いらっしゃい。」
そう呼び寄せるとバタバタと羽ばたいて、こちらに向かおうとしてきた。
「猛禽類だぞ。気を付けろ。」
「彼に私にたいする敵意はないわ。ケージを開けていいかしら。」
ゲンゾウさんが、もう一度気を付けろと言ったのを開けてもいいと解釈し、ケージから咲を出す。
勢い良く飛び出すと店内の天井をぐるっと一回りし、キィーと叫びながら、私の肩に止まった。
肩に爪が刺さると思ったのだが、加減しているのか痛みはなく、近くで見ていた3人も目を丸くして驚いていた。
「来てくれてありがとう。」
というと、頭を頬に刷り寄せてきた。
「驚いた。
まるで昔からの知り合いみたいだ。
文句のつけようもない。君にそいつを託そう。
訓練は必要なさそうだが念のため訓練しよう。今日一日空いているか?」