第2章 旅医者の女
翌朝、太陽が上がる頃に目覚めて、船首の船縁に腰を下ろした。
丁度海が凪ぎ、風も吹かず、ただゆっくりと朝日が顔を出していた。
母の形見となってしまった篠笛を朝吹くのは、父母がいなくなった気配がしたあの日からの日課。
父母、おでん様、トキ様がいらっしゃる天国へ
鎮魂歌の意味も込めて、今日も私たちが生きていて、使命を果たすべく歩んでいる事を私なりに伝えようとしての事だ。
「笛、上達したじゃない。
今も続けていたのね。その日課。」
「母様....。おはようございます。起きてらしたのね。」
続けてちょうだいと言って、私の横に背を向けるように座ると、煙草を取り出して火をつけた。
何も言わず、ただ煙草を咥えて笛の音を聴く母様は、ただそこにいるだけで何故か安心感を私に与えた。
一曲吹き終えると、私は船縁から降りた。
「......あなた、.....これからどうするの?」
「え?」
「考えてるんでしょ?ニューゲートのところに顔を出した後どうするか。」
えぇと返事を返すと、暫くの沈黙が続いた。
「私、一人で世界を回って見てみたいと思うております。
これからも、ますます海が荒れ狂っていくでしょう。
世界政府の腐った惨状をこの目で見ておきたいのです。」
「それはどうして?」
「本当は、父上の最後の手紙を聞かされて思ったのです。
いずれワノ国に帰り、国を取り戻した折、
モモの助様と国を建て直し開国させる時、
政策をたてる上で、私が世界中を見て回ることが、役に立つと思うておりました。
しかし、こちらにきて15年、天竜人の、天竜人による、天竜人のための世界を目の当たりにして思ったのです。
この世界を私が思う理想に近づけそうな者についていきその者のお役に立ちたいと。
主君のため、国のため、この世界を変えるであろう者のため、世界を見、人に出会う旅に出ます。
紅條から貰った人を見る目は、人をつなげる事にもなるでしょうし。」
「その言い様だと、決意はもう止められないほど固まっているようね。」
ストンと母様も降りられて向い合わせになると
母様の目が、じっと私を見てため息を一つつき、優しく抱き寄せて頭を撫でた。