第2章 旅医者の女
笑いすぎてその小さい背中を叩いていると、酒の勢いで加減ができなかったのか、驚くような勢いで立って
「痛い!!」ってこの世のものとは思えんくらい恐ろしい顔で言われた。
いやぁ、美人の怒った顔には箔があるというが、本当だ。
夜風を感じるようになって、ふわりと爽やかでいて甘い香りが鼻を擽った。
「なんか、いい匂いがするなぁ。」
と言って、香りの主の髪に顔を埋めた。
悪戯と思ったのか、払い除けもせず
「黒文字(クロモジ)という木で作った、ワノ国の精油よ。
抗不安作用と鎮痛作用があって、いい気分になるからお気に入りなの。」
と教えてくれた。
精油や伝統医学、民間療法も研究していた時に出会ったというそれは、
本人の性格にも合っていると思った。
擽ったいからやめてと言われて離すと、ユリは少しばかり頬を赤く染めていた。
.....可愛いじゃないか。
「シャンクス、親も兄もすぐ側にいるということを忘れてはいないかね?」
あ、忘れてた。ついうっかり....。
表情に出てたのか、レイさんもヨシタカもユリまでも呆れた顔で頭を抱えていた。
「いい加減飲みすぎじゃないの?明日二日酔い確定じゃない。」
「いいじゃないか!久々に会えたんだ。お前と飲む事なんて初めてじゃないか。
飲まない方が勿体ない。」
はいはい。と軽くあしらわれても何のその。
上機嫌がとまらないのだ。
夜も更けてきて、お開きということになった。
ボルさん達はディルバリー号に戻り、客室にユリとシャクヤク、ヨシタカの部屋にヨシタカとレイリーが入っていく。
俺は結局、自分で歩けないくらいベロンベロンになっていて、ベンに肩を借りながら自室へ帰った。
「頭、羽目外しすぎだ。コーティングはレイリーが腕が良かろうと、作業に1週間はかかるんだぞ!
こっち側にいる間は、もっとしっかりしてくれ。」
「あぁ。すまない。もうお決まりパターンだこりゃ。」
はぁと盛大にため息を付き頭を抱えるベンは、俺をベッドまで送って帰っていった。