第1章 幼い士族が抱く使命ー序章ー
もう少しで限界がみえてくる。
某もここまでなら、
桜、
お主は某より先に逝かせたくない。
某の最期も見せたくない。
だから、最期の使令をだそう。
「桜!城へ向かえ!我らの新しき希望が"行かれる前"に夢を一つ持たらせよ!」
「.....! ははっ!」
これで伝わるだろう。
桜.....。
頼んだぞ。
桜が背を向けたとき
「桜! 良き妻であった。礼を申す。」
「義久様! 慕いしております。
御武運を......!」
そして、桜がいなくなって暫く、我は敗れ
この世を去った。
最愛の子供達の無事を祈りながら......。
この国の復興を夢見ながら。
涙が視界を歪ませる中、
夫の使令を果たすべく、私はひたすら走った。
森も街も炎で燃え盛り、人々の断末魔が響き渡る。
中には乳飲み子の泣く声も。
なんて地獄絵図......。
なんて非道.....。
緑豊かだった九里は、炎の海と化していた。
煙に巻かれぬよう、炎を切り裂きながら前へ前へ進む。
義久様は、おそらく、己の負ける姿を私に見られたくなかったのだ。
本当は一緒に逝きたかった。
だからとて、負け同然のこの戦況で、御父上様を亡くされた桃の助様。
彼に仲良くしてくださっていた私達の子供達が未来で待っていると伝えたら、少しばかりは希望を持ってくれるだろう。
海の覇者の右腕と呼ばれる男なら、
病にかからなければ命長らえ、立派な戦士となり得る。
子供に任せるのは親として情けない話であるが、奴に勝つには時間も力も必要。
親の非力を許しておくれ....。
いろんな思いが交差する胸を抑え、城へと走った。