第6章 死者の声
「オメェは海賊か?」
「いいえ。この船を所有してる会社の幹部です。ディルバリーって聞いたことないですか?」
「んー、いや、俺、山で育ったし」
「そうですか」
海賊じゃないと聞いてホッとしたのは、争う必要がねぇって思ったからだ。どこか話していて暖かさを感じるあたり、この女は敵じゃねぇことくらいは解ったから。
「一応、医術の心得がありまして、この船に運んで、手当をさせていただきました。
わたしはリドル·ユリっていいます。ごめんなさい。名乗るの遅くて…」
「そりゃ、あんな起き方しちまったらな。俺はエースだ。海賊として海に出たばっかりなんだ」
「だから二人だったんですね。にしても面白いメンバー。」
「まだ二人だけどな。なんで面白いって思うんだ?」
「エースさんにデュースさん…トランプとかゲームの立ち位置みたい。」
「へぇ…。」
「いいコンビじゃない?」
「わかんねぇけど、人から言われるの、なんか嬉しいな」
海賊だと言っても驚く様子でもなく、馬鹿にする様子もない。ただ冷静に、反応すら変化させず、淡々と俺の話を聞いて思ったことを返すだけ。
この女から醸し出される雰囲気は強さだけじゃない。頭もよくて育ちの良さも垣間見える。
何もかもが俺と真逆を向いているはずなのに、今まで感じたことがない胸の奥をつかまれる感覚。
不思議な女だ。
ぐぅ~とだらしない音が響いて、沈黙の雰囲気が一転。
女は驚いたように俺を見た。
今まで人前で腹が鳴っても恥ずかしいとも思わなかったのに、みるみると羞恥で顔が熱くなる。
雰囲気のせいだろうか。
「ごめんなさい。お腹すきましたよね。食堂いきましょうか?」
「わりぃな。何から何まで…」
「いいですよ。立てますか?」
「なってこたぁねぇはずだぜ」
俺が転ばねぇように支えようと触れてくる手がどことなく冷たい。
ここらあたりは気候は暖かいハズなのに…冷え性か?
思わずその手を掴んでしまい、ピクリと反応した。
「冷たいな。お前。」
「火の能力者さんの手は凄く熱いんですね」
「寒くないのか?」
「寒くないですがこういう体質です」
「そうか…」
手を引かれて立ち上がると、その手は離されて
少しだけ物足りなさを感じた。
少し笑みを浮かべたままの女。
少しの違和感。
コイツは俺と目を合わせて話をしてこない。