第6章 死者の声
腕を引き寄せて体を密着させるように男の人を抱えた。
完全に脱力してるところから意識がないことを悟ると、海面へ急いだ。
上に上るほど外の嵐が影響して大荒れ。
自分より大きな人を抱えてることで、流されぎみになりながらようやく海面へたどり着いた。
「はぁ…はぁ…大丈夫ですか?」
顔だけ海面からでた状態で男の人の頬を叩いた。
やっぱりぐったりしたまま。
道具もない大海原の嵐のど真ん中でやむを得ず息をさせようと気道を確保し人工呼吸を試みた。
「ゲホッ!ガハッ!」
少し息ができるようになったところで、男の人を仰向けに浮かし、両脇を抱え泳ぐ。
「頑張ってください!必ず助けるから!」
返答がなく苦しそうな表情を浮かべたまま、自力で動くことも出来ない様子。
早く、船に向かわなきゃ。
程なくして咲が戻ってきてわたし達を海面から持ち上げその背によじ登った。
男の人を背負うようにして、その腕を自分の肩に固定し咲にしがみついた。
「咲ありがとう。この人で間違いないのね?」
________ユリありがとう。その人だよ。
咲がそう伝えたのを感じた。
頭をぶつけたのだろうか、咳き込んだ後も息はしているもののうなだれたまま。
「咲!火竜のもとへ向かって!」
キー!
嵐の雲の出口へ向かいながら緩やかに下降していく。
挨拶も無しに飛び込んだから、もう一人の男の人は何が起きたのか戸惑ってるだろう。
前方にオレンジの火を放つ火竜と、必死にボートにしがみつく男の人が見えた。
まもなく追い付くと咲は並走して飛ぶ。
「驚かせてしまってごめんなさい。お怪我はないですか?」
仮面を取りながら男の人に声をかけた。
「おまえが助けてくれたのか?俺はデュース。そいつはエースだ。エースは息はあるのか?」
「えぇ。息はしてるけどぐったりしてるから、このままわたしが向かってる船へつれていきます。
わたしは、ディルバリーのリドル・ユリ。
医者です。」
デュースさんは驚いてしまったようで固まっていた。
「……!ウソだろ?お前が…あの…。」
あまりの驚きように思わず吹き出してしまった。
「ふふ。さぁ、急いで!彼を手当てしなきゃ。」