第6章 死者の声
風も吹き荒れ、風の音に全ての音が掻き消され、目もあまり開けられない。
ようやく人の輪郭がわかるくらいの距離に到達した次の瞬間、高波が二人を襲い、ボートの転覆と共に炎は消えた。
その様子を見ていた咲は、スピードを今までにないくらい加速させ急降下。
わたしも状況を把握してどうにかしがみつきながら、式紙を取り出す。
「式紙七神!ー火竜」
出現した火竜は並走するように飛んで指示を待つ。
「火竜、あのボートを起こし、ボートにしがみつく男の人を乗せて、嵐を抜けて!
咲は、わたしが降りたら火竜と一緒にいて。
すぐ戻るから!」
そういって荒れ狂う海に自分の身を投げた。
父様に鬼のような訓練を受けた泳ぐ技術は常人を遥かに凌駕するほど。
水飛沫も殆どあげず入水し、ボートから投げ出された"炎の能力者"の姿を探した。
当然だけど、荒れてる海のその中も荒れていて、うっかり気を抜くと潮に流される。
幸いシクシス近くの海であるだけにチリやゴミが多少あっても透明度が高い。ただの薄暗い海のよう。
浸水してまもなく、男の人が吐いた気泡と影が見えた。
近くに海王類の気配もする。
急がなきゃ!
腕をもう一掻きして海の奥へ手を伸ばした。
そして手を掴んだ瞬間、すごく熱を感じたの。
そして、また、あの威厳のある中年男性の笑い声を聞いた気がした。