第6章 死者の声
ローグタウンを離れ、イーストブルーをさらに奥地へと向かう。
依然として、あの海賊団の残党らしき船や手配書の顔も見ないままだ。
「エデル。こっちは、まだ出会ってないわ。ミゼルやセナから連絡はない?」
咲の背の上で飛行中。異常気象が続くと言われている海域まであと少し。
事前に報告を受けていた海賊は、逃げていたとしてももうそろそろ出会ってもおかしくはない海域であるにもかかわらず、通った形跡すらないのだ。
『よほど警戒しているのだろう。敵とて、こちらに支部があり、その勢力も把握しているはずだ。油断するなよ。其方ならば大丈夫だとは思うがな。』
「そうね。忠告有難う。とりあえず、臨戦態勢で向かう。」
『あぁ。気をつけて。シスクス海域は常に危険なところだが、今年はさらに気性が荒いらしい。咲がそこら辺を判断してくれるから大丈夫だろうが、用心しろよ。』
「心配性ね。わたしは父から鬼以上訓練受けて、ある程度の嵐でも泳げるのよ?絶対死なないから安心して。でも、忠告ありがとう。」
受話器の奥で僅かに息を吐くのが聞こえる。日頃、近海での物資輸送や、本部医院の管理などで前線に出ることが少ないエデル。待つ側としてはやはり心配なのである。
それも充分にわかっているユリは、少し呆れながらも、安心できるように答えていった。
『休める時に休め。こちらからはそれだけだ。』
「わかった。ありがとう。また何かあったら連絡して。」
『承知した。』
通話を切って、再び前を向く。春のような穏やかな日差しも当たり続ければ暑くなる。滲む汗を拭っては、気合を入れなおすように深く呼吸をした。
「咲。あなたも気をつけてね。いつ敵襲が来るか分からないから。」
咲はわかったようで、先を見る目つきが僅かに険しくなる。
高速で向かう先に何かの危機があるのを肌で感じてきた。