第6章 死者の声
店を出てから沈黙が続く。
早々にこの島を出るらしい式神屋は今何を考えているのか。
「ねぇ。ロー。」
「......。」
声をかけたのは、誰もいない場所に来たからなのか。
式神屋の急な呼びかけに返事はせず、ただ、耳を傾ける。俺が反応したことを確認したのか、式神屋は話を続けた。
「わたし、あなたの仲間にはならない。というよりは、海賊にはならない。」
「あぁ。聞いた。」
「でもいつか、わたしの目的とローの目的が重なったとき、わたしはあなたに協力したいと思う。」
「どう言うことだ?」
さっきの”他と組む必要がある”という話だろうか。であるならば、式神屋が”他と組む”なんて回りくどい言い回しをするだろうか。
でも、今はそんなことを言いたい言い方じゃねぇ。どこか風に吹かれて消えていくような...言うなれば、己の胸の内を語るような言い方だ。
「裏も表もない本当の気持ち。ドフラミンゴを倒すことで、あの男との取引もなくなる。」
あの男という言葉に見当がつかなかったが、逆行で照らされたその様子から、何かを思い詰めたような表情が伺えた。
「どんな形になろうと、わたしは行かなければならない。やらなければいけないことがあるの。
その時が来たらわたしの方から会いに行くから。
強くなってね。」
この女も捨てきれない過去を背負ってる。
詳細は言わねぇが、国が焼かれる前に、父親に国を出されたとは聞いている。
敵は誰なのか、今は詳しく知らねぇが、式紙屋の言ってきた頼みに乗らないという選択肢は今のところない。
「あぁ、待ってろ。すぐに追い付く。」
そういうと、柔らかく笑みを浮かべ、そのまま俺を抜いて背を向けた。
その表情に不覚にも目と心を引き付けられる。
ユリの合図に、ユリの相棒は姿を巨大化し彼女を乗せた。
「今度はわたしが会いに来るね。」
それを言い残して、空に羽ばたく。
背中に太陽の光を背負い、結われていない長い漆黒の髪が艶やかな光を帯びて揺れる。
式紙屋を乗せた鳥は瞬く間にスピードを上げて立ち去った。
もう点も見えねぇくらいあっという間に。
それでも、アイツの背中から目を離すことすらできず、一人、ただ空を見上げていた。