第6章 死者の声
俺の後ろに続くように歩くこの女は、数年前、前半の海のとある医療最先端の島で行われた最先端の医療学会、医療機器展示会場で警備をしていた。
当時その島のとある医学学校の学生だった女が醸し出す雰囲気は、他の警備員と違ってどこか凛として、そこら辺の女とは全く違う何かを持っている。
和刀を二本腰に挿し白衣を纏う姿から、ただ者じゃねェ雰囲気と己の第六感の反応で、声をかけずにはいられなかった。
聞けば俺より年下。戦闘歴を聞くと前半の海にいるやつで自分より強い人に会ったことないという。
流石にハッタリじゃねぇかと一応確認したくて後日手合わせを申し出た。
結果惨敗だった。
それもそのはず。
リドル・ユリその名を聞いてはじめて解った。
赤髪海賊団の若き幹部として名を馳せるあのリドル・ヨシタカの実の妹。
しかも一説にはその大頭の赤髪のシャンクスに一時期共に暮らし、修行した義兄妹だとある。
そして、白髭海賊団にも出入りして、
あの世界最強の男と称される白髭海賊団、船長である白髭ことエドワード・ニューゲートに実の娘のように育てられていたという情報もある。
実際に確認すれば正しくその通りらしく、今の俺が敵う訳がねぇと思った。見たこともねぇ覇気や戦術をもつ式紙屋と出会ったことで俺の力がどれだけ小さいものかに愕然とした。
そして、俺がやりとげたいこととの距離がどれだけ遠いかを思い知らされた。
一方、話をしてみれば、礼節もしっかりしており、話すことに嘘や誇張などなく、こっちの気も組んで話すほどの人物だ。
コイツのそれが、俺から情報を聞き出すための策なのかと、海軍か敵対する組織のスパイかを疑った。
それが違うと分かったのも、彼女の秘める能力が解ったのも、その眼を凝視したときだ。みるみる式神屋の表情で悲壮めいて固まり、「具合が悪くなった」と席を外した。
何故かその場を離れる気にもなれず待っていると、律儀に戻ってきた式神屋の目は充血しており、心なしか下唇に力が入っていた。
涙を流していたことを隠すよりも、待たせまいと急いできたのだろう。
先ほどの話ではそうなる要素なんて含まない。だからといって、疑ったくらいで心を乱すなど、コイツからは考えられずもはや意味が分からなかった。