第6章 死者の声
そして、おでん様は続けた。
「おまえも、海が出ることあらば何を聞こうとも話を鵜呑みにはするなよ。」
藍色に染まっていく空を見つめて何かを思い出すように言った。
「弱き者は勝者が決めた悪人を悪く言うことで己の未熟さを紛らわす。
それによって言われなき罪で傷つくものが必ずおる。
ユリがいつか海に出るときがくれば覚えておけ。
名声や肩書き、親の名で人を見るな。
噂に惑わされず真実を見極めよ。
常に己と向き合い、己の真の言葉に従え。
弱き者に手を差し伸べよ。
解ったな?」
「少しむずかしゅうございます。」
「わーっはっは!!難しいか!
まぁ、強く優しい侍となり、自由に楽しく生きてみよ!!」
「はい!!父上、母上、おでんさま、おときさまのように つよく やさしい さむらいになりとうぞんじます!」
「はっはっは。おれやトキ、義久や桜のようにか!!
御主なら成せるであろう。
これからはお前たちのような者がこの国を治める時代だ。
しっかり頼むぞ!」
「はい!」
「頼もしいな。ワノ国の未来は安泰だ。」
そう言って、夕飯のおでんが出来たと母上に呼ばれ、おでん様と家族で食卓を囲った。
それが最後の食卓になるとはあの時は知る由もなかった。
突如、一瞬でワノ国でもどこでもない真っ暗な空間に突如として業火が現れた。
人影がゆらゆらと炎の中で揺らめいて、影の主がこちらを見た。
立ち姿と、ちょっとした仕草からその人が男だと解る。
でも
知らない人。
その人に手を伸ばそうとすると、また景色が一転して
真っ白で壁や天井がない空間。
誰かを呼ぼうとも声がでない
誰を呼ぼうとしているのかも解らない。
でも、ずっと心のどこかに炎の暖かさがあって、一人じゃない不思議な感じ。
でも、まだそこには行きたくないの。
そして最後に見えない人が低く威厳を伴う中年の男の声でわたしの頭の中でこう言うのだ。
『小娘。俺の息子を頼んだぜ!』
と。
目覚めても悪い予感どころか暖かい涙に濡れる不思議な感覚。
ただ、これから人生において何かしらの大きな出来事が起こるような気がした。