第5章 赤い腕章
髪を撫でてくれる大きな手を忘れないように目を閉じて感じる。
最後に笑え、わたし。
湿っぽくなる空気を変えるように強引に顔を引き寄せ強めの短いキスをした。
驚いて目を見開くあなたに最高の笑顔で
「大好き!行ってきます!」
といった。
「あぁ。行ってこい。」
そして、咲に股がりシッケアールの地を後にした。
もう、わたしはここには戻らない。
わたしは
ディルバリー・カンパニー護衛隊長兼総船医長
リドル・ユリ。
この赤い腕章に誓って
守るべき、愛する家族や仲間のため剣を振るうのだ。
愛した女を送り出した男は
再び一人で住まう古城へと帰った。
女がいた部屋に片付けに入ると、一冊のノートとメモ。
_______最幸な時間と、愛をありがとうございました。
最高の師匠、愛したあなた様の活躍を願っております。
これからも大切な御体、ご自愛ください。______
ノートの方には朝食でユリが作っていたもののレシピがこと細やかに書かれていた。
どこか暖かい眼差しでそれを見る目は少し赤い。
「フッ……。してやられたな。
愛している。」
伝えられなかった言葉は、誰もいなくなった部屋で
女の幸せを祈るように呟かれた。
先程の晴れた空は曇り、しとしとと暖かい雨が降り始める。
それは、男の代わりに空が別れを惜しむ寂しさを代弁しているかのようだった。