第5章 赤い腕章
いよいよ最後の実践。
先ほどの甘く愛おしい時間から一転、いつもの修行の緊張感でお互いが向き合い、刀を構える。
もうこの一戦が終われば二人はそれぞれの道を再び歩むのだ。
「ユリ。これで最後だ。主の渾身の一太刀をぶつけてこい。」
「はい。」
全身の意識を刀に集めて気を込めるように妖雪流桜の覇気を発動させると、バリバリバリバリと一面に氷が張り巡らされる。
氷から放たれる覇気の光と蒸気がゆらゆらと揺れて力を一気に爆発させるようにその足を踏み出した。
シュタタタタタタタタタ
駿足を誇る速さで覇気をまといながら駆け抜ける。
その表情は雪女という妖怪のように冷淡で鋭い目付きで人の領域を外れた美しくも冷徹で恐怖に落としうる風貌へと変わる。
気迫と覇気による力と緊張感が風を切ると共に強くなる。
スタン
踏み切って高く飛び上がり双剣を右脇に構え一気に師たるミホークに斬りかかる。
対するミホークも黒刀を急降下し斬りかかるユリの攻撃を受けるよう低い姿勢で構えて見上げた。
ギィィィィィィィィイイイイイイイイイイン
シュッァ
双方のぶつかり合う覇気が爆発するように光を放ち空振が放射状に広がった。
ユリの右に構えていた刀に僅かに手応えを感じて、高ぶったままの闘志のままミホークの背を振り替える。
トレードマークの帽子は弾き飛ばされて、こちらを振り替えるミホークの頬には数センチほどの赤い鮮血の線が横切っていた。
「良くやったな。見事だ」
その言葉を受け
達成感からか、これまでの様々な感情が混ざったものが
見開いたままのユリの瞳から一筋の涙となってゆっくりと降りていた。