第5章 赤い腕章
別れの前の夜の静けさは
月明かりが心を脱がしていくかのよう。
わたしたちの互いの哀しみをも麻痺させる甘美すぎる時間は
一瞬の出来事なのに愛しい
全てを分かち合った後、別れるのが逆に辛くても
こんなに大切に、時にわたしへの愛を思いきりぶつけるような行為に、他の家族や仲間への強い背徳感と興奮、あまく強い刺激と高ぶる想いで満たされていくこの瞬間が止められない。
でもどんなに事が進んでも、互いに愛の言葉を紡ぐことが出来ないのは
頑なでバカ真面目で、変なところ不器用で………
似てるんだ。
だから苦しいのが解る。
肌を重ねて感じる刹那の悦びと幸福。
惜しみ無く感じて浸り味わい尽くそう。
忘れぬように。
明日、どんな心境であろうと全部受け入れよう。
笑ってここを去ろう。
そして、わたしはここには戻らない。
ただ、
願いをいうならば
わたしがここを離れても、この人が闇に沈んでしまわないよう、何もないこの滅んだ国の土地で、ここに有るもの全てが彼を照らしますように。
ただ………それだけ。
ただそれだけだ。