第5章 赤い腕章
思いを通わせてしまってから別れを迎えてしまうことへの恐れに縛られた俺とユリの心は
一度はお互いの心を知ったまま、穏やかに別れることを選んだ。
しかし、
言葉の代わりに想いをのせた優美な舞のあとで涙を流しながら懸命に感謝を告げる姿があまりにも愛おしく、このまま別れてしまう事の方が怖くなってしまった。
まだ、想いを一度貫いてしまうことを怖れるユリは俺を遠ざけるも、それでも抱き締めた。
脆くしてしまったであろう心をできるだけ傷まぬよう漆黒の艶やかな髪を流しながら頭を撫でると、気持ち良さそうに目を細めた。
その様子が子猫のように可愛らしく再び口付けるとその口から甘美な息が溢れでた。
ゾクリと沸き上がる情欲から、かみつくように唇を重ね、僅かに空いた隙間から下をねじ込み、ぬらぬらと口内を侵食する。
潤んだ薄く開く目蓋の奥の黒い瞳が 俺を捉える。
こんなに強く儚く美しく愛らしい女を俺は知らない。
もう俺の年齢からしても、これが最後。
大切な思い出として心の深くに刻んだ傷をも包まれていくような心地よい温度に溺れていたい。
今宵だけでいい
何もかも忘れて、忘れさせてただ本能と素直な気持ちが重なる感覚を味わいたい。感じていたい。
美麗な装いも少し乱れ、上に羽織る掛け着を取り払う。
ユリの吐息が甘くなる様が可愛らしい。
「可愛い…。」
唇を話して息をさせる間思わず声に出すと
ユリは羞恥で俯く。
その表情も見たくて顎を持ち上げ視線を絡めた。
「なぜ反らす…。今は俺だけ見ていろ。」
「……恥ずかしゅうございます。」
「煽るのも大概にしろ。この歳でも、これほど急いている己驚いているのだ。
制御できなくなる。」
「構いません。今宵はミホーク様に壊されとうございます。」
情欲の火に油を注ぐ言葉が、緩み乱れた息と表情、仕草により色艶を増してくる。
もう、溢れ出す全てが止められない。
「覚悟しろ。」
潤んだ瞳で微かに笑みを浮かべるその唇に貪るような口づけで長い最後の夜に身を投げだした。