第5章 赤い腕章
「笑ってはくれまいか?」
人の心を熟知した大人は怖い。
自由に感じているのに、実はその手のひらの上で転がされているだけなんじゃないかと思うほど。
溶かすように自分が壊されていく様は甘過ぎて癖になりそうだ。
言われた言葉に抗えそうにない。
頭の中はなんだかフワフワしてて心地がいいの。
涙が止まりかけた目のままで、笑みをつくり彼に向けると、その月明かりに照らされた顔は憂い混じりの笑みに変わり、涙の痕を優しく口づけながら、唇へと下がり唇へと何度も重ねられるキスは熱を帯びたものへと変わっていく。
もう、ふわふわ暖かくて、熱くて心地よい……
溶かされた熱で薄く開いた唇に狙ってたかのように舌が押し込まれた。
「ん………っふ…。」
舌に絡まる熱が甘い電流を誘う。
丁寧に味わい尽くされるかのように口内を這う熱が熱いのに深く優しいの。
力が抜けても強く抱き寄せられている腕に支えられて、自由がきかない手は近くに触れたミホーク様のシャツを無意識で掴んでいた。
「すまない。ユリの全てが…その装いと涙を浮かべた笑みに目が眩んでやまないのだ。
もう辞めてやれそうもない……。」
愛さず失うより、愛して失なう方がいいのかな
確かな答えなんてどこにもない。
もう、本音も解りきって
お互い別々の道を歩むと決めているならば
この場で欲に飲まれても抗ってもどちらも辛いのには変わりないんだろう。
この状態まで溶かされて抗えるわけがない。
「抵抗……しないのはこの状況に肯定ととっていいのだな?」
わたしは返事の代わりにその筋肉質な太い首に腕を回して触れるだけの口付けをし、ミホーク様を見上げた。
「今宵、ユリの全てが欲しい。」
「わたしも………ミホーク様に満たされとうございます……。」
再び流れる涙を硬い親指で拭い、一瞬ギラついた瞳の次に呼吸を奪うくらいの激しく唇を奪った。
もう、………溺れよう。
悲しいはずなのにこんなにも暖かく愛おしい月夜の誘いに。