第5章 赤い腕章
「嬉しゅうございます。月並みではございますが、お付き合いいただけますか?」
「あぁ。」
音響の事を考えられたこの部屋で、二人の声はよく響く。
改める必要もないことだがその様がこの城にユリと二人しかいない現実と、そのユリが明日の今頃はもうここにいないという現実を思い知らさせた。
正座で淑やかに手をつき頭を下げるユリは、儚げで艶やかしく、その後ろにあるガラスの壁が、この土地で見たことの無いほどの、澄んだ星空に同化してひとつの絵画を見るようだった。
音声記憶装置トーンダイヤルのスイッチを入れると暫くして鳴り出したのは、笛の音と三味線、鼓の音。
それは視界に入る全てのものと調和するように背景となる大自然に溶け込む。
ユリの舞はそれらを味方につける先導者のよう。
指の先から、表情、着物の袖や裾、足先にまでに魂のこもった様は
彼女の性格や生き様そのもの。
孤高な海賊で世界最強の大剣豪の座に君臨するミホークに、
義兄シャンクスとは違った強い憧れと畏敬の念を抱いてきたユリ。
彼に1ヶ月間休みなく付きっきりで、稽古に付き合ってくれた事実、
そして、
その稽古も本気で剣と剣の心を叩き込んでくれた誠
心の障壁に気付かせ受容する勇気を態度と言葉でずっと与え続けてくれた愛
全てに感謝以上の強い恩を感じている事を、壮大で優雅に表現してユリは舞い踊る。
その全てを感じて息をすることも忘れる程見入っていたミホークはステージの方へと少しずつ歩みだす。
その表情を見たユリは、優艶な笑みを浮かべ袖を大きく振り上げるように舞って魅せた。
月神と自然界の織り成す照明が、彼女自身を麗しく引き立てて、歳の若さを感じさせる隙も与えない。
舞曲の終盤、壮大で煌びやかな旋律を渾身の演舞で踊りきり、息も切らさず、汗も一筋も流さない様は本物の踊り子のようだった。
「見事だ。」
息を洩らすように呟いたミホークの声にユリが見せた笑みは、
言い表しきれぬミホークへの感謝が沢山つまったものだった。