第5章 赤い腕章
寝る支度を済ませ、再びリビングに哲学書を持ち込むと、そこには咲が自分の席である椅子の背もたれにとまり、俺を待ってたかのように見ていた。
「呼びに来たのか?」
俺をみた咲は巨大化させ、俺に乗れと言っている。
部屋は同じフロアですぐそこなのに俺を乗せて飛ぼうというのか?
促されるがままにその背に乗り
咲はユリの部屋であるおくの通路へ入らず、上昇した。
「どこへ行くというのだ?」
話せないので答えないのは当然だがとっさに聞いた。
様子を見るに緊急事態ではなさそう。
ただただ咲は上へ上へ登っていく。
上はもう、使わない部屋ばかりだ。
そこへ何をしに行くというのだ。
咲からは悪意は感じず、ただ早く来いと何やら見せたいモノでもあると言っているように思った。
また、ユリが何か俺にしようとしてるのか...。
鳥を相手にハッキリした答えがわからないまま上へと向かう。
訳がわからぬこの状態にいら立ちなど負の感情はなく、こやつらに乗せられてみようと思った。
今夜がこの者たちとの最後の夜になるのだから。
とうとう最上階に来た。
ここはかつて、王族がダンサーや演奏家たちを集めて夜空を背景としてステージを楽しんでいた場所。
ますますわからない。
防音の扉を押し開けると、月明かりに照らされた何かがこちらに気を向けているのが解った。
「月神。我に光を」
聞きなれた声と共に月明かりの優しい明かりが灯り、そこには見慣れない、しかし艶やかな色彩の衣装を纏ったユリがいた。
「ミホーク様。今回は突然のお願いにもかかわらず、しかも今日まで付きっきりでわたしに剣をそしてその心を教えてくださり誠にありがとうございます。
僭越ながら、感謝の意を込めまして舞を見ていただきたく、失礼ながら咲をつかいお呼び立てした次第にございます。」
そう言って俺を見た顔は白い肌と口に燃えるような赤い紅が美々しく彼女を引き立たせ、姿・形・動作がたおやかで言葉を失った。
「驚かせてしまいましたか?」
「あぁ...。美しい。」
すると柔らかく微笑み、
そして続けた。