第5章 赤い腕章
リビングに着けばいつもより贅沢で上品な盛り付けがされた料理がテーブルに並ぶ。
ワインも一段とレアなものだ。
しかも作り過ぎた感じはなく、テーブルコーディネートもさりげなくもスタイリッシュな花飾りとキャンドルで、ミホーク様の品格とセンスの高さを思い知らされる。
「綺麗………。」
「気に入ってくれたか?」
「えぇ。勿論です。嬉しい……。」
涙腺崩壊しそうで堪えるのに必死だ。
でも、嬉しい。
「喜んで貰って何よりだ。
さぁ、食べよう。明日は手合わせした後、長い移動が待っている。しっかり食べろ。
今日は祝いだ。明日も手合わせするが、今までよく頑張ったな。」
どっち付かずなこの絶妙な距離感が切ない。
ミホーク様の声もいつもより声色が感傷的で優しい。
でも、少し余裕があるかのようにわたしのことを察してか暖かい視線で見守られているような気がした。
その表情を直視出来なくて少し視線を落として向き合うように座る。
「有難うございます。また力が引き出せるようになりましたし、短い間でしたが凄く成長させていただきました。」
「あぁ。実に教え概があった。全てがここに来る前の想像以上だった。
ユリを始めて見た時から気にはしていたが、故郷に戻る頃には今と比較にならん程成長するだろう。
これからも海のどこかで主の成長を楽しみにしている。」
「ふふ。まるで今お別れするみたいじゃないですか。
まだ夜が始まったばかりですよ?」
「そうだな。」
そっか。こうして会えることがこの先無くても、どこかでわたしのことを見ててくれる。
それだけで贅沢なものだ。
この海で腐るほどいる剣士の中の頂点の人からずっと注目を注いでもらえる。
それからは、いつものようにまた今夜の料理の調理法とか、他愛な話をしてくださって、どうにか、気持ちが落ち着いてきた。
食事が終わり、食器を片付け、食後のワインを二人で愉しむ。
この一連の流れが気づけば一日のうちで修行と同じくらい好きで、大切なものになってた。
ふと思いに更けた一瞬という長い沈黙を破ったのは彼だった。
「今夜は満月だな。
月が…綺麗だ…………………。」