第5章 赤い腕章
過ぎて欲しくない時間はあっという間に過ぎてしまう。
時間って何て無情なんだろう。
畑を一緒に耕して、剣の素振り、トレーニング、瞑想…
全部終わったかと思うともう日暮れ。
咲は今夜のサプライズに最適な部屋を見つけてくれて、ミホーク様が夕食を作ってくださる間に部屋に戻るふりをして下見に行ったりした。
明日の支度に部屋の片付け、朝食のレシピの記録を書き留めた。
咲の能力を使って小型化した荷物から打ち掛けつきの舞踊着を出して準備完了。
ふと空を見上げると、今日は満月だと知る。
この土地では珍しいくらいの快晴。
まるであの部屋で踊ることを知ってるかのような天気に最後の夜へせめてもの贈り物にも思える。
壁掛け時計を見れば、もう夕食ができた頃だろう。
「咲、行こうか。」
ググ…ググ…
最後まで笑っていられるかな………
せかせか動いているときはそこまで感傷的じゃないのに一区切り付いてふと気が抜けたら、胸が苦しい。
もう、この時間ならわたしは本部に帰る空路にいる頃だ。
ダメね。
感傷的な感情は気分。
それを明るい意味に置き換える力は意思なのだ。
だからこそ、こんなに良い夜空ほど気分に流されてしまう。
泣くのはここを発ってから。
今夜は強い意思を持って最高の夜にしよう……。
そう心に決めて自室を出た。
ドアの外は毎晩感じた食事の香り。
肩に留まった咲はいつにも増して頭を擦り付けてくる。
その様子はまるで、
わたしの本心を慰めるようだった。