第5章 赤い腕章
起きたのは、次の日の朝が明けようとする時間。
ミホーク様は案の定椅子に座って本を開いたまま、わたしがいる方に頭を拳で支えて眠っていた。
微かに寝息を立てて、深い呼吸にからだが僅かに動いている。
あのまま、ずっといてくれたんだって思うと、心の奥にに暖かいものを感じたの。
好奇心で寝顔が見てみたくて音を立てないようにベッドから降りた。
流石に全身深くまで焼いたからかまだ皮膚の奥がジンジン痛むけど、もうかなり動ける。
音や気配に敏感なはずなのにピクリともせず、難なく彼の前に立てた。
なんだろう、目の前の絵画に釘付けになるように、時が止まったかのような錯覚に堕ちる。
普段隙が全くない人がこんなにも優しく綺麗な寝顔をするんだと、
綺麗に整えられた髭のある頬へ手を伸ばしす。
チクチクする頬は触れた感触だけで、そんなに暖かくない。
「綺麗な顔。」
すると、スッと大きな手が上がり、わたしの手の上に重なり、ゆっくりと目が開かれる。
「綺麗な目。........あっ!」
自分のやったこと言ったことに赤面して、思わず目を伏せた。
「痛みは引いたか?」
わたしのしたことに触れないまま、手を顔から遠ざけるようにやんわりと下に戻す。
照れ隠しにそのまま冷静を装って
「はい。完全ではありませんが………。」
そのまま返事を返しても、いつもの冷静なまま。
冷静に対処してくれてるのか、今は何もその瞳からは読み取れない。
「ならいい。目を覚ましたのなら、俺は一旦部屋へ戻る。」
そういって
何事もなかったかのように背を向けて歩きだした。
「仕度したら、笛を吹くのだろう。」
「はい。」
「俺も聞きたい。外で待っている。」
「え?」
戸の前で振り返り、目を細めてわたしを一度見た後、またそのままパタンと音をたてて部屋を去っていった。
お互いの想いを知って、でも叶わなくて……。
それでいても、突き放すようなこともしなければ、むしろ少し歩み寄った態度に感じた。
大人のこういう駆引きなんて解らない。
でもどこかもどかしくて
心臓の鼓動が煩い。
暫く放心状態のままそこから一歩も動けなかった。