第5章 赤い腕章
結局はね、彼らしいというか、その晩はずっと同じ部屋にいてくれた。
夕食は食べやすいように薄味のリゾットにスムージーを作ってくれた。
それさえも高級料理に思えるくらいお洒落にお皿に盛られて気分が上がる。
ミホーク様はまた普段通りで料理の話や旅の話を聞かせてくれてわたしも気づけばいつも通りに振る舞えた。
食事の後も、隣に置いてある椅子にサイドテーブルと分厚い本を数冊持ってきてそこでミホーク様がワインを注ぎながら
「勝手に寝てろ。今夜はここで適当に過ごす。」
と言った。
「どこで寝るのです?」
「気にするな。俺はどこでも寝られる。」
こちらを見ずに本をペラペラめくりながら言う。
ベッドを譲りたいけど、辛うじてトイレに行けるようになったくらいで動く度痛い。
こんなんじゃ、ベッドに連れ戻されるのは目に見えてるので、色々考えた結果ただ好意に甘えることにした。
ただそこには、穏やかな時間だけが壁掛け時計の秒針の音と一緒になって過ぎていく。
ミホーク様が作り出してくれた雰囲気にすっかり甘えて穏やかな眠りに落ちていった。
「眠ったか。」
俺の方に体を向けて腕を放り出すようにこっちに向けて穏やかな顔をしている彼女を見て、痛みはそこそこ引いたのだとわかる。
うっすら開けられて瞳が僅かに見える目と、僅かに開いた口もとが昼のあの表情を彷彿させるが、それが寝顔だと思うと可愛らしくも思えた。
眠った彼女の黒髪を撫でると、身じろぎして息を漏らす。
「時が過ぎるのがこんなにも無情だとはな………。」
と、月明かりの下で椅子から立ち上がる。
「今は許せよ」
そういって眠り姫の唇の端にそっと口づけた。
月明かりに隠れてもうひとつの琥珀色の猛禽類の目が見下ろしていたことなど気づかずに。