第5章 赤い腕章
「えぇ……。始めから全く違う道であることは理解しています。
しかし、ミホーク様がわたし一人ごときで御自身を最強ではないと言われるのはやめてください。
わたしは、いろいろな人に支えられはしても、誰かに守られなければならない程弱くはございませんから。
今回のことはわたしのこの力への過信が生んだこと。
ミホーク様がそう思っているようではわたしは心苦しく思います。」
「ユリ………」
自分の思いをオブラートに包みながら話すのが上手なんだろう。
でも、分かりきったことを並び立てて言うところから、自分自身に言い聞かせているようにも感じる。
叶わない思いだけど、ここに来たことを後悔したくないから
流れそうな涙はここで流してはいけないと堪えた。
「鎮痛剤は主に効くのか?手持ちのものがあれば場所さえ解れば出してやる。」
ミホーク様はそう切り出してわたしに背を向けた。
そう。これでいい。
師弟関係のままここを立ち去れば、また、今までの日常がそこにはある。
わたしは沢山の人に囲まれて生きてる。
それで充分だ。
わたしは、ミホーク様に鎮痛剤の場所を教えてとって貰った後、水と食事を持ってくると言って立ち去ったドアの音を聞いた後、
痛い体に鞭打って大きな窓から沈みそうな太陽を見ていた。
泣いちゃダメだ。
お互いのためにも。
そう呟きながら、海で航海する二つの海賊団とディルバリーの仲間たち、そして家族の名前を一人一人声に出して唱えた。
咲は、窓際の高いところから、浴室に向かい、バスローブを持ってきた。
「ありがとう。」
布団をめくりあげ、ミホーク様の上着を取り外し、バスローブをかけてくれた。
グググ…グググ…
小さなうなり声を出してわたしの頬に頭をすり付ける。
「咲、あなたにも解ってしまうのね。
明日の夜、わたし、せめてものお礼で"あれ"、やりたいの。わかるよね?」
そう。イゾウに教えて貰った舞踊こそ、全てを言葉無しで伝えられ、見る者に解釈が委ねられる最高の手段だ。