第5章 赤い腕章
屋敷へ帰ると部屋に連れていかれベッドに下ろされた。
「服は動けるようになってから返しに来い」
とそう言い残して足早に部屋を出ようとする。
無意識。本当に無意識で、気がついたら腕を引き留めてた。
「どうした。」
こんな状況でこんな格好で、引き留めたらまずい。
そんなことわかってるのに手が反射的に動いた。
「……………っごめんなさい。まだ体の震えが収まらなくて……。」
伸ばした腕とその周りにある筋肉がズキリと痛んで顔をしかめた。
..............ほんと、アホとはわたしのためにあるような言葉だ。
さっきわたしは上着取ってしまえば何も着ていない状態。
ミホーク様も上は何も羽織っていない。
”ごめんなさい”で話すのを止めて手を引けば終わったのに、”震えが止まらない”って言ってしまったらここにいてってことじゃない。
自分の失言による羞恥で顔が赤くなってくるのを感じるのに止められない。
暫の沈黙が流れ、掴んだ手はそのままでお互いの目を見る。
「震えが止まらぬか。」
「へ?」
一瞬何かを悟ったような顔をした後、真顔のままこちらに身体を向き直し腰を下ろした。
「いつまで腕を掴む。なぜ顔が赤い。目も潤ませて……」
確信犯………
そんな近くで言わないで。
掴んでいない方の手が、心の中を覗くような鋭い視線と相反してわたしの髪を優しくひと撫でする。
「一方通行な思いなら黙っておくつもりだったが、そうでもないようだな?」
わたしの顔を覗き込むように、まっすぐに目を見たまま
すこし憂いの影をおとして話し始めた。
「ユリに苦しい思いをさせた。
俺は剣以外では、主の命を守り抜く事において最強ではない。
それに、赤髪やヨシタカから幾度となく聞いた。兄妹での本懐を果たさねばならないことも、その事がいかに主ら兄妹にとって生涯を懸ける程重要なことかも。
そして、主が誇るその立場も、愛してやまない家族とも
俺にそれを邪魔する権利も奪う権利もない。」
この人の絶対的な自信である最強の名に、わたしの失態が泥を塗ったのだと思うと申し訳なさで目頭に涙が込み上げる。
でも、それはあなたのせいじゃない。わたしのこの力への過信が原因だ。