第5章 赤い腕章
白衣は預けて無事だったから、ミホーク様が着ていらしたトレードマークの上着ごとわたしを包むと、頭の中が一時的に真っ白になった。
あんなの見せつけられて敵ならば無慈悲、無関心で済む。
少しでも特別な気持ちがなかったら、そんな苦しい表情なんてしない。
「肝を冷やした」
って、ミホーク様の口から聞くことはシャンクスでもあり得ないだろう。
そこまで心情をさらしてしまうくらいのその気持ちが嬉しいけど、結末を考えると胸が痛くなる。
わたしが動けないことを知ると、上着でくるんだ状態で横抱きにして連れていってくれる。
わたしに服を貸している以上、当然、上半身さらけ出してるわけで、
見ていられずに視線を反らす。
変よね。上半身さらけ出してる姿なんて白髭海賊団、赤髪海賊団どちらでも日常茶飯事だし、近しい人たちのそれは見慣れてどうってこと無いのに。
ほんのりと服から感じた熱とムスクの香りが何となく暖かく感じて、収まりきってない恐怖心と痛みの余韻で上がった鼓動が落ち着きを取り戻していく。
羞恥心は大いにあるけど、そんなの気にならないくらい
この人には心を丸裸に見透かされてきたんだ。
布一枚でも今は充分だった。
本当はあんなことして怖かった。凄く怖かったし熱かった。そして叫びたいほど痛かった。
結局は抱き抱えられたときにばれてしまったようだったんだけど、
大丈夫だって抱き抱えなおされた時そういわれた気がした。
今だけは、感じた死ぬほどの恐怖と苦痛の分を落ち着かせたくて、ミホーク様の服を手繰り寄せて胸板に頭をつけた。
その瞬間ピクッとその体が動いて心情はある程度理解してるつもりだけど…………
それでも、わたしの中の最後の砦を踏み越えたくなくても恐怖からくるこの震えを止めたくてそうしたの。
ごめんなさい。
咲がちょうどいいタイミングで降りてきて、そこから少しミホーク様も落ち着いたようだった。