第5章 赤い腕章
「ミホーク様は……お優しいから、………あんな事しておいて…声を出してしまったら……いても立ってもいられなくなってしまうでしょ?」
弱々しくかすれた声で懸命に言葉を紡ぐ
「俺は優しくなどない。
まったく………。肝を冷やした。」
そういうと、またなぜか喜んで、
「また、思いがけない表情が見れました」
と楽しんでいるかようにいう。
どうやら、俺は心の焦りを表情に出していたらしい。
まだ痛みが強く、立つどころか上体を起こすこともできないようだ。
「城へ戻ろう。痛むだろうが辛抱しろ。」
と、彼女を横に抱いてその場を後にした。
力なく開けられた少しばかり潤んでいる瞳に、淡い翡翠の光の涙が滲む。
少し汗ばんだ鎖骨の曲線、身体中の痛みのせいで少し荒い息が上下させるその辺り、
布一枚すら隔てず触れる背中の皮膚の柔らかさに突如沸き上がる欲情に困惑する。
しかも、布一枚隔てて服を纏っていないという状況。
しかも、その布というのは俺が着ていたもので、おれ自身も上は何も纏っていない。
理性に勝たせるためにも一旦地面に下ろしたいが、
ここで下ろせばさらに傷に響く。
手を出してしまったとしてユリに多大な激痛を与える。
あろうことか、ユリが頭部を胸に預けてきた。
キィーキィー!
横をすり抜ける影。
ググッ……ググッ………
影の主の存在に気付かぬほど動転していたのか。
乗れと言う彼女の相棒に我に返ることができた。
あぁ、邪念とやらはもう、いいわけがつかん。
だが、ユリが生涯をかけている本願も、彼女が大事にしているものも壊してまで奪いたくはない。
ましてや、俺は他の者と違い元来一人だ。
そんな状態で呪いの氷から守ってやる術は持ち合わせていない。
己の思いの変化に気付いたと同時にそれが叶わぬものだという現実が、俺を絶望感に突き落した。
ならば、彼女が去るまでは想いを封印せねばならない。
ユリが俺に寄せる信頼と尊敬が、さらに彼女を強くするという意味を持つならば、
それを持ったまま強くなって欲しいと願えばこそ。