第5章 赤い腕章
ユリのことが気掛かりで、駆け出す。
彼女を置き去った場所に近づく程人が焼け焦げた匂いが鼻をつき、本当に大丈夫なのかと疑いの心が支配する。
光が現れたことはユリの無事を知らせることなのに、実際その姿を見るまでは安心できそうにない。
もしものことがあったら…………
俺は何を焦っている。
ただ、俺はユリを剣士として興味を持ち、育ててみたいという好奇心で連れてきた。
俺はお前を無事に送り出したいだけだ。
気付きたくない邪念を振り払い彼女のもとへ急ぐ。
たどり着いた目の前のユリは、もとの艶のある黒髪に、白く無傷な肌。
まだ、治癒の過程か体全身に淡い光を纏っている。
人間とはまた違ったような神秘的な美しさに思わず立ち止まる。
それとは相反して彼女の身を纏っていた衣類は灰になっており、起こったことの過酷さを物語っていた。
ここまで心力が強い女だとは思わなかった。
正直、本人のからだの周りの状況から察するに、断末魔の叫び声をあげてもおかしくないくらいの有り様だ。
横たわったまま、苦痛、激痛を堪えるような表情を見せ体は震えている。
声を出さないように唇を噛み締めそこだけが少し出血していた。
「醜態を……晒しました。…………申し訳ございません。」
そう言って何もなかったような、しかし困ったような笑みを浮かべるユリ。
俺は己の身に纏う服を脱ぎ、それごと彼女を包むように抱き寄せた。
「汚れます。灰だらけなのに………。」
この場に及んでそのようなことをいうか。
「構わん。それの方が白衣より肌を晒さずにすむだろう。
それに先ほどお前は自身をバケモノと言ったか?
言い方から悪魔の実ではなさそうだが、悪魔の実の能力でも同じような力をもつものは存在する。
自らを蔑むな。
声をあげたら俺に心配でもかけると思ったのか?」
そう問うと、ユリが微かに笑っているのを感じた。