第5章 赤い腕章
式紙の炎の竜がユリの居場所を知らせるように燃え盛る。
ほんの一瞬の出来事が凄く長く感じられる。
その間に不思議とこのひと月彼女と共に暮らしたことが走馬灯のように脳裏に浮かんでくる。
今思えば、連れてきた日にヒヒを治療したのもあの翡翠の光を使ったものなのだと思えば合点がいく。
そして、食事と稽古の間、そして畑での作業もいつも笑っている顔がそこにあって、楽しそうにしていた。
普段話さないおれの話しもどんどん引き出し、なぜか語ってしまう聞き上手な姿勢。
普段穏やかな彼女が稽古になると勇ましく果敢に挑み、俺に信頼と尊敬の眼差しで全力でぶつかってくる姿勢。
会社の話しになれば部下を思いやる上司としての凛々しさも垣間見る。
そして家族の話題だと本当に彼らを愛してやまないのだとわかるほど楽しそうに話す姿。
気づけば俺自身も彼女と同じ表情で話を受け答えしていたんだと思う。
全てに一生懸命で、愛に生きる勇敢で優しい女だ。
久しぶりに心地よいと感じていた日々がもう少しで過去のモノとなろうとしている。
あの火を見て、この時間、彼女に対して成す術もなく傍観している自分が、
ユリの荒治療に俺を巻き込むまいと咲に俺を任せられたことが、
彼女を守ってやれない情けなさで押し潰されそうな気持ちにさせられ
この世界最強の名に置いても、まだ己の力で守ってやれぬものがあるのかと思い知る。
目の前の女すら、死と隣り合わせな選択をさせ
自ら生きるために自害するような行為をさせなければ生かしてやれないのだ。
暫くして沈下し翡翠色の光が力の主である彼女いる場所を包むように発生し再び消えた時、炎の竜が俺の前に来た。
それを知らせだと受け取り、状況がわからないまま、彼女の元へと行く。