第5章 赤い腕章
ミホークは一瞬その表情に飲まれそうになるものの、氷傀を払ったことで正気に戻した。
妖変した表情が表すのは雪女の力が具現化して全ての攻撃の威力が上がるという事実。
同時にユリの一年ほど前から変わらず、それは諸刃の剣のようにリスクが高い。
だが、運行中の商船で短時間で5億越えの海賊を倒すにはそれがベストだったのだ。
「ほぅ。あの長期戦が短時間に意識を集中させるとここまでになるか。」
どんなに威力を上げようともユリが声を上げない。
声を出す分の力さえをまた刀に注いでるかのように。
突きの姿勢でさらに高速で突進。しかもそれは変化球の球の軌道のように複雑な線を描く。
ガギュイン!ゴゴォォォオオオ!!
これ程までに妖力とは凄ましいものなのかと、余裕の表情を消したミホークも、攻撃への威力を上げていく。
受け止めた剣を弾き返し、ミホークもユリに斬りかかる。
「ここまでとは聞いていないぞ。何故今になってそこまで力の出力を上げたのだ!」
双刀をクロスさせて頭上に突く剣の力を逃がし、触れた黒刀に重力を掛けてぐるりと宙に舞う。
ミホークと向き直ったユリは下に剣先を伸ばしまた斬りかかりに突進する。
「わたしの力は短期集中型でそれ以上剣を進めると命に関わるからでございます。
わたしは戦いに勝とうとも、常に戦闘後に呪いによる病で死とは隣り合わせ。」
斬り合いで火花と金属音が響き渡る。
「ならば、何故!」
「ミホーク様は師としてこれまで、この短期間にわたしの心の鏡のように
己が心を気づかせ心の先にある道を開き示してくださいました。
ここで、このタイミングで命を掛けて挑まなければ、ミホーク様に教えを請うた集大成を示せません。」
「ふむ。なる程な。しかし、死んでは意味がないぞ。」
「死ぬつもりは微塵もございません。これでもまだ正気は保てております。」
「ならばそれで全力で来い!
お前が俺と剣を交え、これまでに習得した全てを見せてみよ!
お前の全力を師として全て見届け、受け止めてやる!」